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十一
「緑……」
「大丈夫です。もう大丈夫ですから、太陽さんも休んで下さい」
椿を抱く腕を、優しく撫でられた。
暖かい温もりが全身を這う。
「椿が見つからなかったら、俺、どうしようって……思って」
「でも、もう見つかりましたよ」
「俺が、至らないばかりに、椿を危険に晒して」
「――太陽さんは、頑張ってますよ」
首に、緑の腕が絡みつく。耳に、緑の吐息が掛るのを感じた。
「でも、俺なんか――んっ」
突然、顎を掴まれたと思ったら、緑の唇が重なった。
重なったというには少し違う、荒々しく俺の言葉を飲み込むかもような深い深い、キス。
「んんっ ――んぅっ」
椿を落とさないようにしっかり抱きしめながら、脳が、身体が痺れていく熱いキスに、身を任せた。こいつ、こんなキス、出来るようになったんだ。
「いくら太陽さんでも、俺の好きな人を悪く言うのは許せません」
そんな言葉、クソ真面目な顔で言う奴、初めて見た。
こいつ、本当の馬鹿だ。
「俺は、一人で、ちっぽけで、弱くて、威勢だけで格好悪い、ダサい奴だよ」
「それ以上言うなら」
ギリギリと歯を噛みしめて緑が怒る。怒られる自分が嫌いではなかった。
「それ以上言うなら、ひん剥いて布団に押し付けて――無理やりにでも抱く?」
少し気持ちに余裕が出てきたのを見透かせれ、ゆっくり眠っている椿を奪われた。
「抱きませんが、抱き締めます」
あくまでも、真面目ぶる緑をつい、鼻で笑ってしまう。
「今なら、良いのに?」
振り返り、緑の首筋を指先でなぞる。
俺とキスした唇は、濡れて光って艶めかしい。
「――っ太陽さん、疲れてるんです。早く眠って下さい」
一瞬、目を見開き息を飲んだ緑は、すぐに冷静に努めてそう笑う。
「今、その恐怖を取り除いて欲しいって、すげー弱気なんだけど?」
「弱ってるなら、尚更弱みに付け込めません」
此処まで言ってるのに、この堅物馬鹿野郎は。
「だからさ、お前に弱いとこ見せて甘えてるんだけど?」
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