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五言、新婚生活
「くっそ。腰がダルい」
「すみません」
「それに此処、ヒリヒリするんだけど」
「開いて見せないで下さい」
身体中が石のように重く、鈍く骨が軋む朝。
頭の中が吹き飛んで真っ白になって、気絶するまで抱かれた。
誘ったら、ブレーキが壊れてアクセル全開でがっついてきたのは緑だ。
「やっぱ若いと、元気になるのが早い」
「一歳しか違わないじゃないですか」
「だがお前は元気で椿の離乳食まで作ってるだろ」
「すみません……」
俺だけ負担が大きいなんて理不尽だ。くそ。
おかげで昨日の事は、記憶の奥の奥まで突っ込まれた気がする。
「あのさ」
「はい。お水ですか?」
「や。俺さ、親父さんとこで働くの辞めようと思ってる」
無謀だよなぁと頭を掻き起き上がると、何も身に纏っていない生まれたままの姿で緑を見下ろす。
「服、着てくださいよ。あと子どもがいるので再就職は難しいと思います」
真面目な緑の想定内すぎる返答に嫌気がしつつも、両手をだらんと突き出した。
「着替えさせろ」
「……はぁ」
溜め息にも近い返事で、そこら辺に脱がされていた服を掴むと甲斐甲斐しく腕に通してきた。
「お前は、親父さんを知らないからな。これ以上親父さんの迷惑になるような事を俺はしたくない」
「遼子さんの事も気にされてるんですよね」
「気にしない方がおかしいだろ。あの人がは変になったのは俺のせいだ。俺さえ居なければ平穏なんだからって、ごらっ 下着も履かせろ。何を躊躇しやがってんだ」
人が真面目に話している間、緑は俺の下着を掴むとソッと俺の手のひらに乗せやがった。
「朝から凝視したくなくて」
「凝視なんざしなきゃいーだろーが」
渋々足に下着を通すと、視線を反らしながら上へ持ち上げていく。
耳まで真っ赤な緑を見てると、俺までムラムラ込み上げて来そうだ。
「親父さんは俺がフラフラとバイク転がしてた頃に面倒見てくれていた人なんだよ。これ以上は迷惑かけられねぇ」
「じゃあ次の仕事は決めてるんですか?」
着替え終えた俺を見た後、椿のオムツが濡れてないか確認しキッチンに向かいながらそう言う。
「うーん。緑のお嫁さん?」
緑は何もない場所で頭から盛大に転けた。動揺しすぎ。
「嘘だよ。お前みたいな学生に俺が養えるか」
「あ、あと四年もせずに養います!」
「うっせ」
椿を抱っこしてテーブルに着くと、鼻を押さえた緑がご飯をよそってくれる。
納豆に鮭に味噌汁にひじき。よく出来た嫁だと思う。嫁に抱かれたけど。
「じいさんの花屋を継ぐか壊して別の店開くとかな」
あの便利な場所は欲しいな。
クソジジイはまだ死にそうにないのが問題なだけで。
「親父さんにとりあえず言ってみようかな」
「俺は……太陽さ……太陽が決めたならそれに着いていきますから」
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