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 保育園にも謝罪に行った。ほんとうは休ませなきゃいけなかったかもしれないけど、俺も仕事で、翠も大学がある。他に預けられるところがないから、こればかりは本当に申し訳ない。  俺のバイクの音がすると、千秋が一番に園から園庭に飛び出して、泣き出しそうな顔で俺に手を振る。  俺は少しの間だったけど、――大切にできなかったけど、千秋が恋人になってくれて感謝している。 「保育園も迷惑かけちまったから、その、近場に空きがないか申請もしたんだけど」 「そんな。うちの園が悪いのに」 「でも、椿を腫れ物みたいに扱わなきゃだから申し訳なくてさ……」 朝、緑が椿を連れて来た時も謝罪の嵐だったらしいし、こんな時ぐらい休ませてやれば良かったのに、俺の配慮もクソもなくて。 「でもね、たいよ……華野さん」 椿を抱き締めながら、千秋は優しい顔をする。 ちょっと早めに迎えに来たせいで、子供がいっぱい居る中、椿もお友達に囲まれて遊んでいて可愛かった。 そんな椿を我が子のように抱き締める千秋は、聖母マリアのようだ。 「華野さんは、愚痴も言わないし明るいし、椿くんを見てたら分かります。こんなに頑張って育ててるんですから自信を持って欲しいです」 椿の頭を撫でながら、そう言う。 「華野さんが今回の事で何も自分を責める事は何もないんですよ?」 年下の千秋にやんわりと説教されている自分に気づき恥ずかしくなる。 「聞いてる?」 「あ、うん。もちろん。――ありがとう。千秋、あと昨日探しに行ってくれた先生たちも、んで心配してくれた主任さんも」 俺と千秋の会話を遠くで聞いていた先生たちはぎくりとしていたけど、俺は照れ臭くて笑う。 「昨日はやっぱ冷静じゃなかったし反省する部分は多々あるけれど、俺さ、昨日気づいた事もあるよ。椿がメチャクチャ可愛いって事。俺も自分の子供は可愛がれるんだって事」 へへって笑ってそう言うと、千秋が真っ赤な顔になり椿を手渡してきた。 名残惜しげに千秋に手を伸ばす椿を振り払い真っ赤な顔をエプロンで隠す。 「千秋?」 「大変! 主任が倒れましたっ」 「学年主任が鼻血出しています」 「まじかよ。保育室熱いんじゃねえっすか」 俺はただ昨日の感想を述べただけなのに保育士さん達のノリの良さに思わず平伏してしまう。 「皆、面白いっすね。ありがとうございます」 顔が綻ぶ。 昨日、椿が初めて俺を『パパ』と読んだ話もすると、やっとお葬式みたいに静まり返っていた保育園も明るくなった。

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