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六言。クソジジイと花屋。

「おいおい、汚ねぇな。可愛い孫が帰るんだから掃除ぐらいしろよ」 枯れた花が腐り溶けてゴミ袋の中に入ってるのは流石に吐き気がした。 「うるせぇな。腰が痛いから休業中じゃボケ。 なんだこの赤ん坊は。お前に似すぎて可愛いげない」 「んだと!? 俺に似てるから可愛いんじゃねーか、クソジジイ」 憎たらしい事しか言わないからムカつくが、椿を抱っこして離そうとしない。 それどころか、伸びきったサンタみたいな髭を椿に引っ張られても怒鳴りもしないし抵抗もしやしない。 「可愛いんじゃねーか、やっぱ」 「なんだと!?」 「ちょっと抱っこしてろよ。掃除してやるから」 腕捲りして軍手をつけると、一階から掃除を始める。 花屋のくせに売れないもんだから、観葉植物は売り物なのかインテリアなのか見分けがつかない。 大体、駅からも商店街からも離れてるこの店に客なんか来るもんか。 片付けていると二階は腐海の森だったが、三階は使われてないのか空気が淀んでいただけだった。 腰が悪いクソジジイには、三階建てのこの家は広いし不便なんだと思う。 「感謝しろよ、クソジジイ。ゴミ袋七袋分綺麗にしてやったぞ」 腕組みし仁王立ちした俺を、クソジジイは冷やかな目で見る。 「ふん。落ちてたゴミを集めただけで偉そうにするな、クソガキが」 殴ってやろうか。このクソジジイ。 「で、花屋閉めて、どうしてんの? 金は?」 「蓄えぐらいあるわ」 「――花屋の売り上げとかほぼねーのにか?」 「お前には迷惑かけん。口出しするな」 くっそ。ジジイじゃなかったらアッパーぐらいしてやりたい。 だが広い家に一人。収入無し。こいつ……大丈夫なんか? 「あのさ、俺と椿が此処に住んでやろうか?」 「お断りじゃ」 クソジジイは可愛くもないのに舌を『んべ』と付きだして来やがった。

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