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二
「ガキが心配すんな! 気持ち悪い!」
「なっお前の心配なんかするかっ キモい。俺はお前が死んだらこの家を乗っとるんだよ、バーカっ」
「なんじゃと! お前こそキモいじゃ! お前にやる遺産は何一つないわい」
「ないのかよ!」
ガキはどっちかと言いたくなるぐらいムカつくジジイの発言に、ジジイの腰が治ったら絶対にボッコボコにしてやると誓った。
今すぐボコボコにしてやりたいが、我慢してやる。
「椿は可愛いだろ」
「喋らんお前もこんくらい可愛かったわ。こいつもこうならないように口を縫い付けてやりたいわ」
俺こそ減らず口を縫い付けてやりたくなった。
こう見えてもバイクの改造やら細かい事は結構得意だしな。
「今は腰に負担がないよう簡単なフラワーアレンジメントの委託の仕事をしとる」
「あ? 委託だ?」
「ねっとを知っとるか? ねっとで花屋を束ねる『まねーじめんと』の会社に登録してこんな仕事なら出来ると依頼を受けるんじゃ」
ネットとかマネージメントとか。
いつの間にそんな事に手を出したんだろう。
ただ――……。
爺さんが寝てからこっそり探して見てみた、委託依頼の明細が明らかにピンハネされすぎていて、納得できなかった。
これなら会社を通すより、店開けてフラワーアレンジメントだけ引き受けた方が倍以上儲かるのだけど。
「ちょっとさ、俺バカだから緑から見てどう?」
クソジジイに椿を預けて、ハローワークへ行った帰り、緑と合流して聞いてみた。
ファースドフードの店に入り適当に注文する。
緑と外でデート(?)するのは初めてだから、ちょっと緑のテンションは高かった。
そんなテンションだったはずの緑は、明細を見て途端に眉間に皺が増える。
「仲介料の他に手数料とか上乗せ額がちょっとおかしいです」
「だよなぁ。だよなぁ」
バカな俺でもおかしいと思うレベルでほっとした。
「お爺さん、腰が悪いのにそんな値段でも仕事を引き受けないといけないぐらい困ってるんじゃないですか?」
「……そうか」
「心配ならやはり一緒に住んであげた方が良いのでは?」
緑の言葉に気持ちが揺らぐ。
でもそもそも素直じゃない頑固ジジイは、一緒に住みたくないと頑なだし。
「ちょっとその領収書、借りても良いですか?」
「え、ああ」
「違法性がないのか調べてみます」
「まじか。すげーな、お前」
「……いえ。太陽さんの為ならば」
照れる緑が可愛くて髪をわしゃわしゃしてやる。
「そーいや、お前、あんま自分の事喋らないよな」
「……そうですか?」
コーラを飲みながら急に緑が口ごもる。
ますます怪しい。シャイな野郎だ。
「大学は法律系? もしや弁護士希望!?」
「いえ。無難な経済です。将来はほぼ小さな頃から家業を継ぐつもりだったので。肩書きが欲しいだけの無駄な四年です」
「うわ。皮肉ーぅ。無駄な四年でも俺みたいな馬鹿はまず受からないし。えーと名字は『寒田(かんだ)』だよな」
「……は、はい」
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