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三
名字は好きではないらしく(名前も女の子みたいで嫌いなくせに)あまり呼ばせてくれないが、そんな嫌う名字でもないのに。
コーラはもう入ってもないのに、緑はいつまでもズズズとストローで吸っている。
飲み終わったのかと時計を見ると、ジジイの家に帰るには丁度良い時間だった。
「じゃあ今日はもう帰るか」
「ええ!?」
わざとらしく驚かれて首を傾げてしまう。
俺も飲みかけのココアを吸い出していく。
「んだよ」
「この道を一本渡ったら、ラブホ街なのにですか!?」
ブホッ
大好きなココアを吐き出してしまったじゃねーか。
「緑、お前殴らせろっ このカス!」
「何でです? 今日、此処で待ち合わせ指定されてから俺はずっと楽しみにしてましたよ?」
「知るかっ んな椿とくそじじいが待つ家に石鹸の香りを撒き散らして帰れるか。ばーかばーか」
ベーっと舌を出すと、緑はしゅんと項垂れる。
「じゃあ、あの家に太陽が住むと、俺たちはいつ愛し合うんですか」
「おまっ 愛し合うとか気持ち悪い言い方すんなよ。エッチな。んなの、そこらへんで車でも停めて――」
ブホっ
次は緑が噴き出す番だったようだ。
んとにくそ真面目野郎が。
「そんな、処理だけみたいで嫌です」
「女子か、お前は」
だが、椿が居る以上、やっぱ出来る場所は限られてるわけか。
「クソジジイが死ぬまでまて。150歳は生きるけど」
「そんなの、俺が太陽を思い過ぎて先に死にます」
「困った奴だな、お前。融通利かない石頭め。う――ん」
のらりくらりしててもしょうがねぇか。
「此処からなら二択だな」
「二択?」
「狭いが激安、料理が美味いホテルか朝ごはんが無料で、映画見放題だが壁が薄いホテル」
「太陽!」
緑がキラキラした目で見てくる。
男同士で入れるかは知らないが、社会勉強になっていいなら連れて行くか。
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