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「確かずっと前に使って割引券がまだあるはずなんだよな」 ごそごそと財布を覗くと、有効期限無しの1000円割引やらポイントが溜まったカードが出てきた。 「お、どっちも使えそう。行くか」 フフンと得意げにそう言うと、緑はプルプルと震えだした。 「どこの女性と使ったか分からないカードやポイントカードを使うんですね」 「女々しいな。いいじゃんか、別に。男はお前が初めてなんだぞ?」 「でも……」 まだ納得がいかないような緑の顔に、温厚な俺の堪忍袋もいい加減切れた。 「じゃあ、知るか! こっちは此処まで歩み寄ったのに、お前がそんなうじうじなら俺はもう知らねーよ」 「太陽」 顔を上げた緑が、焦ってはいるが少し悲しげなのにも苛っとした。 「帰る!」 「太陽っ」 「お互い、頭を冷やすべきだろ、この発情ザル!」 あっかんべーっと吐き捨てると、振り返らずそのままヘルメットを被りバイクに跨った。 腹が立ちすぎて事故りそうだったので、一旦車を止めて自販機の前で携帯を見る。 こんな時に、誰に聞いたらいいのか悩んで、ナイスタイミングで千明から電話がきた。 『えっと、うーーん』 「んだよ」 『私も、その、他の人と使ったカードは嫌だけど、でも』 「女の子はそれで良いと思うぞ。デリカシーのないクソ男は駄目だ。千秋みたいに控え目で可愛い奴は特に男を見る目は必要だ」 『そうですね。経験のない私になんでこんな愚痴を吐くのかと私、既にもう泣きそうです。見る目無かったのかしらと』 「あ、すまん」 電話してきた内容は、椿の母の日のプレゼント制作で、お母さんの絵を描くらしく、椿は誰を描きますかという質問だ。 大体はおばあちゃんかお父さんを描くらしい。ばあちゃんは居ないので俺を描くことにするらしいが、ついつい千秋ならとまた甘えて話してしまったぜ。 『その、乙女心は繊細なんだと思う』 「あいつ、女じゃねーもん」 『え?』 「あ、やっべ。引くか。気にしないでくれ」 『あ、うん、うん、ははは』 初な千秋を動揺させてしまった。

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