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四
「確かずっと前に使って割引券がまだあるはずなんだよな」
ごそごそと財布を覗くと、有効期限無しの1000円割引やらポイントが溜まったカードが出てきた。
「お、どっちも使えそう。行くか」
フフンと得意げにそう言うと、緑はプルプルと震えだした。
「どこの女性と使ったか分からないカードやポイントカードを使うんですね」
「女々しいな。いいじゃんか、別に。男はお前が初めてなんだぞ?」
「でも……」
まだ納得がいかないような緑の顔に、温厚な俺の堪忍袋もいい加減切れた。
「じゃあ、知るか! こっちは此処まで歩み寄ったのに、お前がそんなうじうじなら俺はもう知らねーよ」
「太陽」
顔を上げた緑が、焦ってはいるが少し悲しげなのにも苛っとした。
「帰る!」
「太陽っ」
「お互い、頭を冷やすべきだろ、この発情ザル!」
あっかんべーっと吐き捨てると、振り返らずそのままヘルメットを被りバイクに跨った。
腹が立ちすぎて事故りそうだったので、一旦車を止めて自販機の前で携帯を見る。
こんな時に、誰に聞いたらいいのか悩んで、ナイスタイミングで千明から電話がきた。
『えっと、うーーん』
「んだよ」
『私も、その、他の人と使ったカードは嫌だけど、でも』
「女の子はそれで良いと思うぞ。デリカシーのないクソ男は駄目だ。千秋みたいに控え目で可愛い奴は特に男を見る目は必要だ」
『そうですね。経験のない私になんでこんな愚痴を吐くのかと私、既にもう泣きそうです。見る目無かったのかしらと』
「あ、すまん」
電話してきた内容は、椿の母の日のプレゼント制作で、お母さんの絵を描くらしく、椿は誰を描きますかという質問だ。
大体はおばあちゃんかお父さんを描くらしい。ばあちゃんは居ないので俺を描くことにするらしいが、ついつい千秋ならとまた甘えて話してしまったぜ。
『その、乙女心は繊細なんだと思う』
「あいつ、女じゃねーもん」
『え?』
「あ、やっべ。引くか。気にしないでくれ」
『あ、うん、うん、ははは』
初な千秋を動揺させてしまった。
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