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六
今にも泣き出しそうな緑の姿。
「ありがとうございます。親父さん。また明日電話します」
そう電話を切った後、緑を睨み付けながら近づいていく。
そんな反省した姿しても、俺はすぐには許してなんか……。
「太陽……」
「…………」
「ごめんなさい……」
「…………」
無言で通り過ぎようとしたら腕を捕まえられた。
「離せっ」
「違っ 違うんですっ 例の派遣会社、倒産しちゃうんです」
「――――は?」
まて。
『ごめんなさい』って、ラブホ事件での焼きもちではなくて?
そっちの話?
よく見ると緑の手には茶封筒が握られている。
「向こうの会社側が騙して多く取っていた分を取り返して来ました。でもそれがバレたから事件になる前にと会社事逃げられました」
「まぁ悪は散ったんなら良いんじゃねーの?」
「だってお爺さん、腰が悪くて派遣しか仕事できないのに。仕事自体を奪ってしまって」
そう苦悩する緑に面食らってしまう。
こいつ、真面目すぎだろ……。
「お前、良いことしたくて派遣会社に乗り込んだわけじゃねーだろ?」
「良いこと……」
「俺が相談したから、俺の為なんだろ? じゃあ、俺が嬉しいんだからお前は気にする必要ねーんだ。分かるか?」
泣きそうだった緑は、少し考える。
「理屈で考えんなって。俺が良いって言ってんだからいいの。偽善事業じゃねーの。おまえはおれ俺の為なの。クソジジイの事なんかで悩むな」
「男前ですね、太陽は」
「当たり前だ。この真面目クソ野郎」
フンっと腕組みして睨むと、不安そうにしていた緑がやっと肩の力を抜く。
こいつ、こんなんでよくもまあ俺を押し倒そうとラブホに行きたがるよな。
俺が押し倒してやる方がお似合いだ。
「でも、だ。俺はまだお前を怒ってるぞ。靴でも舐めさせてやりたいぐらい」
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