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八
ジジイの病気は、肺癌。背中が痛むのは背骨に転移しているから。
治療はお金がないからか末期だからか手術を拒否している。
そして一年前に手術してからの再発のようだった。
再発なのか転移に気づかなかったのかは知らないが頑固なジジイだ。再発ならばもう手術はしねぇんだろうな。
はっきり断言できるのは、クソジジイだけが俺の親だということだ。
学校は殆ど行かなかったし、喧嘩で返り血浴びた服で帰った事もあった。
そんな俺を殴って家に放り込んだり、縛り付けて学校に投げ入れたり、洗剤を頭からふりかけられシャワーでお湯を浴びせられ血を流したり。
――思い出しただけでも殴りたくなるようだ。
そんなジジイと椿と……三人か。
頭が痛くなるが仕方ないな。
一度に色んな選択をしなくちゃいけない。
そんなどんよりした気持ちのまま、親父さんに紹介してもらった仕事先に面接に行った。
就職先の社長さんはのんびりとした……怒った事があるのかと思うぐらい穏やかでにこやかな親父さんだった。
だが、あの親父さんの昔の仲間をしていた時のまぁ要するに族長という人らしく、親父さんから菓子折り付きでお邪魔した。
社長の徳馬さんに憧れて、全国各地からこの店を目指してバイク走らせる奴等やバイクを聞きに来る人が多く、いつも賑やかで、ちょっと気合いが入った奴等ばかり客で来る。
確かに普通の店員はなかなか決まらないかもしれない。
「ふー。疲れたぁ」
怒鳴りながら蹴散らしながらの修理やら見積もりやらで既にへとへとだったが、愛する椿の待つ保育園へ向かう。
「こんにちはー。スーツか……素敵ですね」
『可愛い』と言おうとして言い直した保育士さんたちを睨みつつ挨拶しながら向かう。
「華野さん」
しかし待っていた千秋は困った顔をして椿を抱っこしていた。
一枚の画用紙を持って。
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