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七事。嘘つき、さようなら。
椿をクソジジイに任せ、引っ越し作業をするとアパートに戻る。
その途中、緑にアパートに来るように連絡した。
『ちょっと時間かかりますが大丈夫ですか? 六限が終わるのが六時で、今から向かうので』
「ああ。待ってる」
お前が通う大学からは俺のアパートは15分じゃなかったのか?
15分なわりに車で来てたけど。
お前みたいな進学校に通っていたお坊っちゃまがこんな地方の大学に通うのも、こんな地方で金貯めるために一時でもバイトしてたのも、今では全て嘘臭い。
全て全て嘘に見えてくる。
「お前は……本当に『緑』か?」
『どういう意味ですか?』
「どこからが嘘でどこからが真実なのか俺には分からないからな」
『太陽さん?』
「嘘なのか? 寒田(さわだ)緑」
『っ』
そのまま携帯を切る。
急いで緑が来るだろうが俺は、あいつが謝ってもちゃんと許せるだろうか。
まずはちゃんと話を聞いてやれるだろうか。
アパートに着いて、ヘルメットを外し髪を整えるために顔を横に振る。
すると、俺の家のドアの前に二人の人影が見えた。
その二つの人影が俺に気づいた時、やっと俺もその二人が誰のか理解できた。
馨の葬式の時に俺に散々暴言を吐き、罵り、そして葬式どころか会場にさえ近づけさせてくれなかった――馨の両親だ。
高そうな高級スーツの難しそうな顔をしたじじいと厚化粧のばばあ。
「何の用だよ。俺はもうお前らに会いたくなんざ」
「息子を返してちょうだい!」
「馨だけじゃなく緑にまで近づくとは! これだから下品なやつは嫌なんだ。親と一緒で肉体で人に取り入る卑しい奴め!」
「親と一緒で? はん。俺には親はいねーよ。ハゲとブス」
敵意しか向けられていないのに、まともに会話してやりたくなくて笑ってやると、緑の母親でもあるそのブス女はわぁぁっと泣き出した。
「お前はうちの事務所の女優『神崎陽菜(かんざきひな)』の隠し子だろ。そんな事、うちの娘も息子も知っている」
「厭らしい。生まれてくるべきじゃなかったのよ。貴方は!」
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