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三
それからは、椿に食事をさせて寝かしつけてから、プツンと糸が切れたように目が冴えた。
一心不乱で、あいつの鞄に荷物を放り込んでいく。
緑の歯ブラシ、緑のコップ、皿。緑のタオル、布団、服。
いつの間にかあいつが持ってきたボストンバックには入りきれないぐらい、この家には緑の存在はでかすぎた。
椿が母親の似顔絵に、緑を描くぐらい。
どれぐらいボーッとしていたか。
まとめた緑の荷物の前でどれだけボーとしていただろうか。
車のブレーキの音と荒々しくドアを閉める音。
そして勝手にドアを開き息を切らして駆け付ける影。
「太陽!」
「……うるせーよ」
「何が……何があったんですか!?」
汗が伝う首筋に、泣きそうに叫ぶその悲痛な姿。
俺がベットで虐めてる時よりも艶かしく感じる。
「嘘つき野郎。くそが」
「太陽……」
「お前には――裏切られた。もううんざりだ」
バックを顔に投げつけると、眼鏡が床に落ちる。
「お前とはもうお別れだよ。二度とその面を俺に見せるな!」
そう叫ぶと緑の顔は真っ青になった。
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