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太陽はもっと怒り狂うかと思ったが、冷やかな瞳でただただずっと俺を見ているだけだった。 俺を蔑むような、虫けらを見るような、侮蔑し軽蔑し見下している目で俺を見る。 つい数日前まであんなに抱きあったりキスしたり、椿君と三人で笑い合ったのに。 嘘をついたまま傍にいた代償が、――これだ。 「姉さんには、子供ができたら俺が近付くから会わないで欲しいと約束していたのに破られらるとは思いませんでしたよ。そこさえ狂わなかったら、太陽を独り占めできたのに」 「椿が邪魔だと言いたいのか?」 「いいえ。ただ、太陽が苦労されてたから罪悪感に苛まれまして」 そう言うと、近くにあったカバンを投げつけられた。 俺がこのアパートに私物を持ち込んだ時のカバンだった。 「偽善者が。死ねよ」 好きだと囁きあったその愛しい唇で、俺にそんな汚い言葉を吐くなんて。 「貴方が椿君の世話を一人で出来ないから、単位ギリギリまで傍に居た俺にそんな言葉を吐くなんて……」 「頼んでねーよ」 「劇的な出会いを演出するために、路上駐車していた太陽のバイクを通報したのは俺です。そこで、帰宅ラッシュに慣れていない太陽を助ける計画は――成功でしたよね」 ガソリンスタンドで再会する計画も。 水色の単車なんて太陽の言うとおり、わざと修理に時間がかかるような、太陽の仕事場に頻繁に通えるようにボロい単車を見つけてきて買っただけ。愛着なんて無いし、乗る予定もない。 俺は、ただただ貴方に近づきたくて狂った優等生くんで。 嗚呼、会えば会うほど、貴方は太陽のように眩しく魅力的で、綺麗で。 俺は、嘘をついて素性を隠して、貴方を泣かせても甘いキスをしたい、傍にいたい。 今すぐ、俺に傷つけられた貴方のその傷を舐めてあげたい。 「消えろ、最低だ。気持ち悪い。――お前は俺なんて好きじゃねーよ」

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