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二
「ぱぱ?」
「好きなお菓子でも描いたんじゃね? お前、甘いもの好きだし」
誤魔化す。
誤魔化すというより、もう忘れてしまいたい。
無かったことにしたいんだ。
「ほれ、はやく描いてオヤツにすんぞ。ドーナツ買って来てるんだ」
「やった! えきまえのぎょうれつてん?」
「ああ。行列店だ」
一体何処でそんな言葉を覚えてくるのか分からねーが。
椿は俺に似て、甘いものが好きなようだ。
ドーナツと、身長を伸ばすために牛乳を飲まそう。
「ぱぱは、ちあきせんせいにはなたばつくってあげるの?」
「ああ。それぐらいしか出来ることないからな」
「じーじが、ぱぱのはなたばは、だいなみっくでびゅーてぃふるっていってたもんね」
「っち。あのじじい、生意気に英語で感想なんぞ言いやがって」
「おれもぱぱのはなたばすきだよ」
そう言われると、もう何だか他はどうでもよくなって来る。
「かわいいな。ちゅーしてやろうか」
「えのじゃましないで」
ぴしゃりと椿にそう言われ、ちょっと俺は寂しい。
もっと構ってくれてもいいじゃねーか。
仕方が無いから、俺も花束を作るか。
千秋みたいな、ピンクと赤可愛い花束を。
真っ赤な薔薇だけは、旦那がいるんだから使うのを止めようと思うけど。
爺さんが亡くなってもう4年か。
癌だから長引くと病院代やら高く着いただろうから、あっけなく死んじまって……。
全く悲しむ間もなかった!
死んだら、くそじじいの借金が出てくる出てくる出てくる。
びっくりするぐらい、くそじじいもこの店も借金だらけだったから驚いた。
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