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十三言、嘘つきな花束。
『ああ、もしもし? 俺、雷也。寒田 緑ってやつがマネージャーだって言えば電話してきた理由分かるか?』
それは、一本の電話から再び始まった。
『寒田がいつまでもこの電話番号残してるのが、女々しくてさ。事務所の社長が、お前に似てる俺を寒田に宛がったんだし、いい加減寒田を楽にしてやってくんね?』
「てか、ガキくさい喋り方だが、お前誰? 口の聞き方には気を付けろよ」
ライヤという名前なんて聞かされても、全く知らないが――嫌な名前を持ち出してきやがった。吐き気がしてきそうだ。
『俺は頼まれただけだもん。寒田が結婚するから、あんたから花束を贈って解放してやれって。貰いに行くからさ』
その言葉は、俺の腸を煮えくり返すのには十分だった。
あんなに、好きだったのに、こうも簡単に人を憎めるのか。
だが、花束を作ることで俺の心が解放されるなら作ってやる。
最高の、――花束を。
「こっちの条件を飲むなら、考えてやるよ」
そう言って俺は、時間を指定した。
◆◆◆
Side:緑
「いい加減、高校だけはちゃんと卒業してくださいよ!」
「はいはーい、うるせーな」
「雷也!」
デビュー前に根性を鍛えてやろうと同居してみれば、好き嫌いは多いし、夜はふらふら遊びに出掛け夜中まで帰ってこない。
気に入らないことがあると壁に穴を開ける。
本当に、この子は癇癪持ちの子供みたいだった。
「雷也、お前は俺と住むのもストレスになるみたいだな」
「寒田が悪いわけじゃねーよ、俺、他人が駄目なだけで」
はぁ。本当に手が掛る。キミが歩いて行く芸能界は、他人との関わりが大事だと言うのに。
「今から、ペットショップ行くぞ」
「なんでさ」
「お前みたいに心が不安定な奴は、アクアリウムを始めると良いと思うからだ」
「アクアリウム?」
「熱帯魚を、照明や水草など環境を整えて育てることだ。綺麗で心が癒されるぞ」
ガサツだが、繊細なこいつには合っていると思う。
「行くぞ」
「あ――。や、ちょっと今日はヤバい」
「何がやばい?」
雷也は、しまったと口を滑らせたことを明らかに動揺していた。
「雷也?」
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