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「用事があるんだ!」 ぷいっと顔を背けた雷也は、明らかに怪しい。 嘘をつくのが下手クソなんて、――まだまだ大人に揉まれていないガキだ。 「あんなに言ったのに、約束を破ったんですね」 雷也はギクリと身体を動かした。 「これでは、貴方と私のビジネスも破綻です。マネージャーを変えましょう。丁度、キミみたいな美少年が好きな女性が一人、手が開いていますので」 やっと、俺に気を許しかけていた矢先に、女のマネージャーなんて嫌なのは分かり切っていた。 露骨に眉をしかめる雷也が、ぼそっと言い放った言葉は俺を殺すかのような爆弾だった。 「アンタの元恋人って男だったんだな。アンタが婚約したから花束作れって言ったら、すんなり承諾したぜ。その代わりもう関わるのはこれっきりだと」 「は?」 何で、そんな――。 そんな、『嘘』を。 「いつまでも女々しく連絡先を残してるのがうざくてさ。連絡も取れない癖に。 俺は、あんたの元恋人代わりに社長が見つけて宛がわれた人形なんて――本当に虫唾が走る」 ああ、この子は本当にもう、救いようがない。 残念ながら、俺はキミを代わりになんてできないのに。 「君にもいつか、そんなに大切に思える相手が現れれば分かりますよ」 「んだよ。俺は今、そんな話ししてねぇよ」 「すいませんが、今はキミと話をするより、先に彼の誤解を解きたいのですが。 指定する公園で待っててくれますか?」 雷也はむっとしながらも、頷く。 「いい加減、縁を切るか仲直りしやがれ」 そんな簡単な話ではないんです。 20歳の時から会わずもう八年。 太陽から冷たく拒絶された瞳で見られるのはずっと怖がったが、会わなくては。 また彼を傷つけているのか。 それとも、彼は俺の婚約なんてもうどうでもいいのかもしれない。 そんなに俺を臆病にさせるのは、彼に酷い嘘をついてまで恋人の位置にいた後ろめたさからだ。 それが俺に後ろ向きにさせるんだ。

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