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息を飲む。 いや、息をするのを忘れる。 頭を金槌で殴られたような衝撃を受けた。 そんな真っ青なブーゲだった。 向日葵や薔薇、コスモス、百合。 様々な種類の花が青色に塗られ、寂しく泣いているようなブーゲだ。 凍りつくような、触ったら氷で怪我してしまいそうな、ブーケ。 泣いていた。太陽の心は――泣いていた。 「太陽!」 店に飛び込んできた俺を見て、太陽は眼を見開いたあと、見る見るうちに怒りに満ちた色に瞳を染めた。 髪が少し伸びた、とか、 ちょっと痩せた?とか、 影がある色気が滲みでていて言葉を失う。 「キャンセルだろ! 一方的に雷也とか言う奴から連絡が来た! 失せろ! 俺の前から消えろ! 死ね、顔もみたくねぇよ!」 暴言を吐きながらも、太陽は今にも泣き出しそうな震えた声をしていた。 彼は八年経った今でも、こうして強がって危うい。 「違うんだ、俺は今回は本当にその、雷也が嘘をついただけで、キミを騙そうなんて微塵も思っていなかった。太陽にただ、許して貰いたくて、ずっと苦しかったんだ」 情けない、覚束ない言葉で必死で言いわけの言葉を並べた。 情けなくてもいい。呆れられてもいい。 ただもう、『嘘』でキミを傷つけたくなくて、必死だった。 「聞きたくない」 「太陽」 「もう、うんざりだ。八年も消えてたんだ。次に会うのは10年後か? お前はそんなに俺に会わなくても平気なんだから、今さら許して貰うなんて、おかしいだろ。誰が許すんだ?」 自虐的に笑うが、太陽は泣かなかった。 泣かない代わりに、泣きそうに悲しいブーケを俺へ投げつける。 宙に散らばる青い花弁が、まるで涙のように辺りを埋め尽くし、視界を奪った。 「椿は、もう一ミリもお前を覚えてない。ざまあみろ」 くくっと笑うと、机を蹴飛ばし小さくいてぇと零す。 「今さら、俺たちの前に現れたら迷惑ってことだ。お利口なお前になら分かるだろ? 寒田さんよぉ」 それは、大きな大きな嘘だった。 拒絶して、もう俺なんて信用できなくなるぐらいの、嘘。 俺が想像していた以上に太陽は、繊細で壊れやすい性格だったんだ。 壊れて傷ついた心を癒すには、――傷つけるものを拒絶して受け入れることや許すことはしない。 太陽を捨てた母親のように。 頑なに母親と会わず、母親を頭の隅から追い出したように。 太陽はもう俺という存在を追い出したいんだ。 それが、現実なんだ。 「太陽は、椿君の世話を手伝ってくれるなら、俺じゃなくて良かったですか? もし千秋先生の親に反対されてなかったら、彼女との道を選んでましたよね?」 「何が言いたいんだよ」 「俺は確かに貴方を傷つけました。傷つけて、泣かせて、抱きました。いや、抱かせてもらいました。でも俺は、寂しいからと太陽の代わりに雷也を傍に置くつもりも、誰かと婚約するつもりもありませんから」 浅ましく縋って、こんな惨めな姿、太陽からはどんなふうに映っているんだろうか。

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