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何で、そんなこと、お前が言うんだ。 椿を一人で育てていないのは、――お前が居たからだろ!  甘えは、俺を――。お前が俺達に嘘をついたくせに。 「親父!?」 タクシーから降り立った椿が、此方に向かってくる。 高級そうなシャンプーの香りを髪から香らせながら。 「椿! お前は二階へ上がっていろ!」 「彼にも聞く権利があるはずですよ」 「お前が言うな。ぶっ殺すぞ!」 バットタイミングで帰って来やがった椿に苛々しつつも、テーブルの上に置きっぱなしにしていた、花切り鋏を寒田に振り上げると椿が慌てて俺を羽交い絞めしてきた。 「落ち付けってば。親父っ」 自分でも、子供の前だった分かってても抑えきれない。 「こいつは――こいつは! お前と俺にっ」 冷静じゃいられない。 今のタイミングでは、椿にとてもじゃないが聞かせてやれない。 「すいません。椿君、やはり少しだけ席を外してもらってもいいですか?」 空気を読んだ椿が息を飲み、二階へ駆け上がる。 俺はテーブルの上に置いた空の花瓶を眺める。 寒田は俺を真っ直ぐに見上げている。 水に濡れ、尻餅を付いた情けないまま、俺を。 一分も経ってないが張り詰めた空気は何時間にも感じられた。 絡み合う事はない視線は、虚しい。 壮行しているうちに、椿が二階から駆け下りていく。 せっかく帰って来たのにまた出掛けるようだ。 「俺が付いた嘘は、――貴方には許せられない嘘のままですか?」 ――許せられないまま? その言葉に、俺は花瓶を床に叩きつけた。 キラキラとガラスが星屑のように散っていく。 「許すも何も」 声が震えて情けなかったが話を続ける。 「お前は俺に死に物狂いで謝ったか?」 寒田の切れ長の瞳が大きく見開いたように見えた。 視線は交わさなくても、分かる。 「お前の嘘は、18年経てば風化されて許せちまう嘘か? 俺は善人じゃねーぞ。糞野郎」

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