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三
「太陽に嫌われているのを受け止めたくなくて逃げました」
「太陽『さん』だろ。もう他人なんだから余所余所しく呼べ」
「まだ……いえ。一生、俺は太陽さんを思うでしょう。この先もずっと」
嘘をついてまで、だろ。
傷つけても、嘘をついてでも、お前は欲しいものを手に入れたいだけ。
自分勝手な野郎だ。
そんなヤツ、吐き気がするぐらい大嫌いだ。
それなら、さっき会った下心全開のげーのーじんの方がまだましだ。
アイツは視線だけで俺にゲイだと言って反応を試したぞ。
視線だけで俺がゲイに嫌悪感がないと分かるやらオープンに口説いてきた。
それはまず自分の性癖をオープンにして何も隠さずぶつかってきたからだ。
今の寒田は、あのげーのーじん以下だ。
「じゃあ証明します。18年間の気持ちを証明します。毎日会いに来ます。嫌がられても無視されても来ます」
嘘つきのくせに、俺にそんな台詞を吐くのか。
「お前は、俺が18年前のまま、お前を許せないだけで怒っているように見えるのか?」
ゆっくりと視線を絡めた。18年ぶりに、寒田を見つめる。
「悪ぃが、俺はお前にもう好意は一ミリもない」
正直な話だ。
これから先、許せてもう一度恋人に戻るつもりは毛頭ない。
これ以上はもう俺たちには先が感じられなかった。
楽しかった思い出も、セピア色に染まって色褪せていく。
それぐらい、俺は信じきっていたお前の嘘や、
俺から逃げた10年が許せなかった。
「じゃあ……やり直します」
立ち上がった寒田は、濡れた髪を掻き上げながら言う。
「もう一度初めから、太陽さんを口説きます」
「椿の子育ても、バイクの修理も、もう会いに来る口実は全てないのにか?」
鼻で笑うが、寒田は真面目な顔で真っ直ぐ俺を見る。
「貴方を好きという口実があります」
嘘もないと真っ直ぐに。
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