80 / 206

「太陽に嫌われているのを受け止めたくなくて逃げました」 「太陽『さん』だろ。もう他人なんだから余所余所しく呼べ」 「まだ……いえ。一生、俺は太陽さんを思うでしょう。この先もずっと」 嘘をついてまで、だろ。 傷つけても、嘘をついてでも、お前は欲しいものを手に入れたいだけ。 自分勝手な野郎だ。 そんなヤツ、吐き気がするぐらい大嫌いだ。 それなら、さっき会った下心全開のげーのーじんの方がまだましだ。 アイツは視線だけで俺にゲイだと言って反応を試したぞ。 視線だけで俺がゲイに嫌悪感がないと分かるやらオープンに口説いてきた。 それはまず自分の性癖をオープンにして何も隠さずぶつかってきたからだ。 今の寒田は、あのげーのーじん以下だ。 「じゃあ証明します。18年間の気持ちを証明します。毎日会いに来ます。嫌がられても無視されても来ます」 嘘つきのくせに、俺にそんな台詞を吐くのか。 「お前は、俺が18年前のまま、お前を許せないだけで怒っているように見えるのか?」 ゆっくりと視線を絡めた。18年ぶりに、寒田を見つめる。 「悪ぃが、俺はお前にもう好意は一ミリもない」 正直な話だ。 これから先、許せてもう一度恋人に戻るつもりは毛頭ない。 これ以上はもう俺たちには先が感じられなかった。 楽しかった思い出も、セピア色に染まって色褪せていく。 それぐらい、俺は信じきっていたお前の嘘や、 俺から逃げた10年が許せなかった。 「じゃあ……やり直します」 立ち上がった寒田は、濡れた髪を掻き上げながら言う。 「もう一度初めから、太陽さんを口説きます」 「椿の子育ても、バイクの修理も、もう会いに来る口実は全てないのにか?」 鼻で笑うが、寒田は真面目な顔で真っ直ぐ俺を見る。 「貴方を好きという口実があります」 嘘もないと真っ直ぐに。

ともだちにシェアしよう!