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四
「俺、お前にそこまで思われるような男じゃないけど?」
「俺が好きなのだから関係ないです」
はぁ。
真面目なのは分かっていたけど。
真面目な所が長所で短所だ。
溜め息だけしか出てきやしない。
「たまぁに抱かせてやってもいいけど?」
それでその押さえきれない衝動やら突っ掛かってる胸の内を吐き出すなら。
たまに一夜だけ見知らぬ女を抱くのだからほとんど他人の寒田に抱かれても、いいかもしれない。
「俺がイかなくてもお前は満足できるだろ」
ぷっと皮肉を込めて笑うと、寒田は傷ついたように眉をしかめる。
悲しげに。だが、俺はもっと傷つけばいいと思う。
もっと傷つけたいと、思う。
「俺はお前と別れてから、適当に遊ぶ方が性にあってると分かった。楽だ。傷つかないし」
「そうやって太陽さんは逃げるんですか?」
唇をキリキリ噛み締めて、言う。
「俺は逃げた事、あったか?」
キスしたい。
抱き締めたい。
抱かれたい。
そんな思いは全て消えた。
お前が逃げてきた18年。
今度は俺が逃げてやる。
逃げて、逃げて、傷つけて傷つけて。
その先に何が残るのか分からないが。
積もって恨んだ感情だけがただただ残る。
このまま、逃げていれば良かったと思わせてやりたい。
それぐらいズタズタにしてやる。こいつを傷つける『嘘』はどんな『嘘』だろうか。
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