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五
「あんた、この前、俺をバイクで追い抜かした奴?」
「ああん?」
バイクで?
ここのところ忙しくてバイクで走りになんか行ってねーよ。
サングラスをかけて不敵に笑うこの男……、
誰だっけ?
「ほら、俺、あんた誘ったのに、あんなに興味無さげに逃げられてさあ」
「あー? んー? 最後に一人で走った時に見かけたげーのーじん?」
なるほど。
確かにこんなにふてぶてしかったかも。
「てか、お前、何で俺の花屋に無断で入って来てんだよ」
帰れ帰れと手で追い払うが、げーのーじんは凄く楽しそうに口笛を吹いた。
「なんでタイプじゃない椿が気になるのか、ずっと腑に落ちなかったんだが――今日分かった」
「あ?」
「あんたにもう一回、会うためだったんだな」
くるりと視界が反転しどうやら俺は流れるように自然とテーブルへ押し倒されてしまったらしい。不覚。
「なぁ、あんた名前は? 椿の兄?」
あー……、なるほど。
「お前が俺の椿を脅してた『KENN』?」
「脅してたかな。雷也には勿体なくてね。てか俺の椿って、恋人とか言わねーよな?」
むっ。
こいつ、どうみても俺より年下なのにどうして馴れ馴れしいんだ?
「よくも椿を脅してくれたな」
「え?」
KENNが聞き返してきた隙を狙い、テーブルについていた両手を殴り、組み敷かれていた下から脱出した。
そして、状況が飲み込めていないままのKENNの右手を自分側に強く引っ張り、バランスを崩したKENNをそのまま投げ飛ばした。
投げ飛ばされたKENNひっくり返り、ずれたサングラスから天井を呆然と見ている。
「お前身体重い割りには隙だらけだな。本当に椿はこんな奴に負けたのか?」
「あんた……一体?」
不思議がるKENNに腕組みして見下ろしながら笑う。
「椿の父親だ」
「は?」
「父親でイケメンフラワーデザイナー。こう見えて36歳だ」
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