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六
「椿の父親? あんたが?」
目を見開いたKENNが俺を指差す。
「人を指差すな。そっくりだろ?」
「あんた、何歳? え、椿何歳?」
混乱したKENNが投げ飛ばされた時に落としたサングラスを踏みながら俺をまじまじと見るま。
「俺は36歳だよ、ガキ。あとあんたじゃねぇ」
「36……?」
とうとう口を開いたままポカンと此方を見つめてくる。
若く見られるのは慣れてるが、ここまで驚かれるとはちょっと新鮮だ。
せっかくげーのーじんで顔の造形はイケメンなのに間抜けな顔になっている。
「あは……あはははは!」
KENNは突然よく通る声で笑いだした。
天を仰いで笑っている。
「椿の父親なんて! あんた最高っ 俺の想像を飛び越えていくなんてスゲー」
一通りはしゃぐと、笑うのをやめる。
「笑い終わったなら帰れ。椿に会いたいならボコボコにすんぞ」
「いや。もう俺の執着してた理由が目の前に居るから椿には何もしねーよ」
「椿じゃなくて俺を狙いたいと?」
「椿に何の魅力を感じてたのかやっと分かった。あんたの息子だから気になってたんだよな」
調子がいい。
適当な事を言いやがる。
「あんた、別に男が駄目なわけじゃねえだろ?」
俺を誘うように強く射抜く瞳は、強気に笑う。
「さあ? 男とは処女だから。抱きたくもねぇし。俺、結婚して奥さんいるし」
ポケットからオモチャの指輪を取りだそうとして、指先の剥がれた皮の部分がピリピリと痛む。
取り損なった指輪がコロコロと転がり、KENNの足元へ落ちる。
「あんたの事だから、どうせ一服盛られて騙されて妊娠されちゃったんじゃねーの? ――こんな安そうな指輪じゃ俺は騙せないぜ」
足元に転がる指輪を踏みながら、KENNは近づいてくる。
「そんな色気を漂わせながら――処女なわけねーだろ?」
「処女だよ。しょーじょ」
36歳のじじいが大声で威張る話でもないが。
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