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「だがこんな歳だし身持ちが堅いわけじゃねぇぜ?」 痛む指先を見つめたあと、視線をKENNに向ける。 KENNはすぐに視線に気づき、意味深に微笑む。 「……へぇ」 「遊んでそうな奴と一回だけとか、後腐れないし恋人面してこないし楽だな」 水に活けたままの薔薇を見つめながら、俺は言う。 嘘は言ってない。 ――俺は甘い嘘はつかない。 しょじょも嘘じゃない。もうやり方も忘れたから。 忘れたのは初めてと一緒さ。 「俺も一回だけのライトな付き合いも好きだし相性良ければ、何回か関係持つけど」 KENNは水に活けたままの薔薇を一本取り出す。 「あんたとは深く付き合いてーな」 刺だらけの薔薇を、刺なんて気にせず掴み、顔を寄せる。 「深く、か」 駆け引きとか恋愛とか、面倒だから好きじゃねーが。 「取り合えずお前、手の面、厚そうだから手伝え」 赤いエプロンを腰から巻いて、 グローブのような大きな手で薔薇の棘を拭いてい るKENNの姿はなかなかシュールだ。 大人しく人の言うことを聞くような奴に見えないのに。 「おい、終わったら濡れたタオルで拭けよ」 「はいよ」 「何……」 何を考えているのかと眉を寄せて、つい冷たく睨みつけてしまう椿に、俺たちは漸く気づいた。 「おかえり。あれ? ジムは?」 「おかえり。お前の父さん、綺麗だな」 二人に話しかけられても同時に応える器量もない し、質問したいのは自分のほうだとふつふつと怒りが込み上げている椿。 不機嫌なオーラ だけは出していたので俺は気づいていたけど。 ジム帰りはシャワーを浴びて帰るはずの椿の髪が濡れていないことを見逃さないぜ。 「寒田さんと次の仕事の打ち合わせが入ったか ら」

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