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「あっそ」 そう素っ気なく言うと、作業に戻った。 あいつの名前を不意打ちで聞くだけでも不愉快だ。 「あのさ、俺とKENNは接触禁止って言ってよね、 親父」 椿が此処まで感情をむき出しにする相手も珍しい。 「そうそう。そう言ったのに、こいつ俺をいきなり押し倒してくるからさ」 「はぁ!?」 あっけらかんとした俺の言葉に、存在さえ見ないフリをしていたKENNの方を椿は振り返り睨みつ ける。 「お前、本当に誰でもいいんだな! 最低だ! さっさと消えろ!」 スポーツバックを振り回しKENNを追い立てるが、 KENNはエプロンを脱ぎながら避ける余裕っぷりで余計に椿の怒りを煽る。 「いやいや、お前を口説きに来たらお前のお父さ んに吹っ飛ばされたんだよ。柔道?」 「……親父は唯の喧嘩強い元ヤンだよ」 椿には一度も元ヤンだと言ってないような。 いや武勇伝は話したっけ? 「元ヤンじゃねーよ。綺麗な顔だと身を守るため に強くなるもんだ。お前もこんな奴ぐらい骨の 一、二本折るつもりでいけよ。おい、お前、薔薇 は棘抜き終わったのか」 「んーー。痺れるな。俺と遊んでよ、お・父・ さ・ん」 容赦なく空のバケツを投げつけると、KENNから薔薇の花だけ奪い取る。 「もう椿が帰って来たからお前、帰っていいよ。 ご苦労さん」 しっしと追い払うと、KENNはギラギラした目で見てくる。 よくもまぁ俺にまでそんな目をするなぁ。 俺36歳だぞ。 だが、椿の心はそれを見ていて穏やかでいられるはずもなく。 直に二人の間を割って入り、レジ横からCD-ROM を取り出した。 「今すぐ帰らないと、このお前の新曲をネットに アップしてやる」 すぐさま、散らかっている花弁を掻きわけて、店用のパソコンを置くと電源を入れる。 「ったく。親子揃って冷たいんだから。――俺は二 人とも全然問題なく抱けるのに」 「こいつ、も一回殴った方が馬鹿が直るんじゃ ねーかな」 茎の部分をワイヤーで固定しようとしていたペンチを振りあげる。 残念だがKENNに全く興味無いどころかパシリに使ったあげくに用済みになったらこの態度。 これぐらいすれば、その気がない相手にこれ以上手を出せないと践んでいるま。 それでも椿はまだKENNに噛みついていた。 反応があるだけでもKENNは嬉しそうだった。 「そういや、お前の出生も聞いたぞ」 一番、言ってはいけないようなディープな部分の話も告げる。 気まずくなって会いに来なければい いのにと皮肉を込めて。 だが、KENNは落ちついて いて、サングラスを取り出すと表情を見せないよ うにゆっくり掛ける。

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