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二
「……緑?」
「ふ。あんた、寝ぼけてるだろ」
無理矢理開けた目蓋が、居もしない幻を勝手に映し出した。
――下の名前だったから、KENNには誰か分からなかっただろう。
この寒空の下、白い息を吐きながらKENNが俺を見上げていた。
「椿ならもう眠ってるぞ」
「椿じゃねーよ。……俺はあんたを誘いに来たんだ」
「どうだか」
本当は椿じゃなかったのか。
どっちかが顔を出せば、都合のいいような言葉を吐いたんだろうな。
だが丁度いいんじゃねーかな。
お互い、手に入らない相手の代わりに名前を呼び合うのも。
「今から走りに行かねーかなって」
「今から? 無理。眠い」
近くにあった時計を見ると、あと30分もしないでクリスマスが終わろうとしていた。
「クリスマスぐらい、真面目に好きな人と過ごしたくならね?」
「じゃあ椿を起こして来てや」
『る』と言う前に、KENNの甘い声が遮る。
「嫌だね。アンタがいいんだ、太陽さん」
「えー。俺、数日寝てねーから眠いんだよ。お前げーのうじんなら電話一本で誰か来るだろ」
面倒くせーと頭を掻いているが、KENNは俺から目を反らさなかった。
「電話一本で飛んでくる奴に魅力があるか? 何べんも言わせんなよ。アンタの時間くれよ」
歯の浮く台詞を言いなれてるんだろうな。
「やべ。お前の台詞、鳥肌が立つわ。無理。お前無理だー」
「後ろに乗せてやるから。いいだろ? 俺がずっと此処で吹かし続けてたらアンタは血が滾って眠れないだろうし」
「えー? お前まじしつこいなー。そんなんじゃ好きな奴からもうざがられるってーの」
押せ押せなKENNの台詞に、今すぐ窓を閉めて布団かぶって丸まりたくなる。
「アンタは俺が引いたら、追いかけるのが難しい奥まで逃げるからね。うざくてもいい」
「…………」
「眠たいとか言いながらも、俺の声で起きたんだから観念してよ」
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