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三
「……分かった。下に降りたら一発殴るからな」
「太陽さんになら殴られてもいい。寧ろ殴られてぇな」
「キモッ」
なんなら思いきり殴って朝まで気絶させようか。
流石にこんなに寒いのに殴って朝まで外に放置すれば殺人未遂かな。
「うげ。寒っ」
「太陽さん、後ろ乗って」
KENNは既にエンジンをかけたバイクに跨がっていた。
パフパフと後ろを叩いて乗れとしつこい。
「寒いからやっぱ帰る」
「これ以上、俺を弄ぶなよ」
上着を脱いだKENNは、俺が着ているパーカージャンバーの上からその上着をかけた。
「寒くないだろ?」
「キッザ! キッモッ」
「……本気じゃなきゃ今からホテルに連行して朝まで調教してやるのに」
「はいはい。粋がんな。さっさと飛ばせよー」
まだ不服そうなKENNが段々鬱陶しく感じ出したので後ろから背中に噛みついてやった。
面だけでなく背中の皮も厚いのか痛くなさそうだ。
どう鍛えればこんなに筋肉が付くのだろうが。
喧嘩は強いが見た目で舐められている俺には、無駄な筋肉が付かずひょろりと情けないんだ。
ムカついて背中から腹へ回した両手に力を込めてしまう。
てか、男の後ろに乗るなんて初めてだな。
走っている時に、流れていくネオンやぶつかる風に心地よさを感じていたんだけど。
こいつの後ろじゃあんま風は感じない。
だだ流れていくネオンや景色は綺麗だ。
温かい体温はなんだか落ち着かないけど。
嫌いではないと思う。
「帰りは俺が運転する」
「あー!? 何か言ったか?」
走っている最中だ。風の音で聞こえないのは仕方ない。
「帰りは俺が運転するっつたんだよ!」
「はー? 俺があんたの後ろに乗るの?」
「そうだよ。ばーか! 黙って乗れ、ばーかばーか!」
筋肉に嫉妬した俺がお腹をつねると、KENNはくくっと声を圧し殺して笑う。
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