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六
「対象外なのは怖いからだろ」
「んなの、貫通式が痛いのんだから怖いに決まってるだろ」
つまらない。
つまらない会話をしていると思う。
終わりもしないつまらない会話。
なのにKENNは楽しそうだ。
ヤりたいから、俺の警戒を解くためにとりとめのない会話をしているくせに。
それなのに腹を抱えて笑っていやがった。
甘い香りなんてしない。
苦い煙草の臭いを撒き散らす、この年下のくそ野郎に。
居心地がいいかも、なんて。
「寒い」
「俺の分まで着てるのにか?」
「うるせえ。寒い。とっとと帰るぞ。後ろに乗れよ、バーカ」
ヘルメットを被ろうとしたら、その手を遮られた。
「まだあんたと居たい」
うわ。真っ直ぐに見つめてくる。
「ホテルに行きたいって意味か?」
綺麗な言葉で飾ってもどうせヤりたい事は1つなんだから。
「違うって。あんた臆病すぎ」
「お前の頭の中はヤりたいかヤりたくないかと思ってたんだが」
「それは根本にあるけどさ、アンタと恋人になれたら――なんか変われる気がするんだよ」
けっ。変身でもしてろ。ばーか。
甘い言葉に苦い煙草の匂いが、アンバランスで。
甘ったるい言葉を吐く声は、ハスキーで低い。
落っこちてそうな満月の下、俺は恋愛なんて面倒でましてや恋人なんか一ミリも欲しくなくて。
心に侵入して来るヤツなんざもうウンザリだと思ってた。
だが煙草の味がするキスは、してみたい。
疲れた脳が、まとまりのない答えの出ない思考をさ迷っていた。
「むかし、恋人がいたなぁ」
ボソッと呟く。
「昔って」
鼻で笑うKENNを鼻で笑い返す。
「俺が18年前の18の時だからお前は9歳の鼻垂れのガキんちょの時だぞ」
ゲホッ
KENNが18年前と聞いて噎せやがった。ガキめ。
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