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九
家に着いて、バイクを止めるとすぐにバイクから降りて、KENNと距離を取る。
そして、ヘルメットを思い切り投げつけた。
「じゃあな、もう二度とデートなんか誘うなよ。鳥肌が暫くは取れん」
「意地悪言わないで。――何度でも誘うに決まってるだろ」
「やべ。今の台詞で俺の回りの温度が5度は下がった。死ぬから帰ろう」
静かに、椿が起きないようにシャッターを開けると、KENNが俺に聞こえるような大きな舌打ちをしやがった。
俺が全然振り向きもしないから、とうとう本性を出しやがったな。
上等だ。ぶっ殺してやる。
握りこぶしに力を込めたが、KENNからの反応は予想とは違っていた。
「じゃあ、俺と恋愛しましょーよ」
は?
恋愛しましょーよ?
「身体から恋愛したいなら、身体からでも良いけど、それは心もくれるって条件だからな」
いや、お前の意見を勝手におしつけるなってーの。
「じゃあな、おやすみ。太陽」
「あ、待て。てめぇ、呼び捨てなんかしてんじゃねーぞ」
やっぱり一回ぐらい殴ってやろうかと振り返ると、とっととバイクで去って行った。
謎だ。最期まで、良く分からん、掴めない奴だった。
というか、変な奴だ。
バイクの音が遠ざかって行くのに、まだ耳に残っている気がして、何だか苛々する。
姿も、バイクの音が消えても、苛々だけは消えなかった。
また来る、と言いながらいつ来るかも言わなかった。
本当にまた来るのかと思うと、苛々はするものの頭の隅であいつじゃないかと過ってしまうのか。
――めちゃくちゃ悔しい。
二度と来るな。くそ。
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