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十
結局、どっと疲れてしまった俺は、自室ではなく再びソファで眠ってしまっていた。
女なら、嬉しいのかもしれない。
騙されていいなら、あんな歯の浮く台詞で舞い上がってすぐに抱かれてしまえ。
俺は、遠慮どころかお断りだ。
――うんざりなんだよ。
疲れたのとさっさと寝てしまいたくて、ビールを一缶飲み干して、こてんと眠ってしまった。
ガンガンガン
ガンガンガン
「くそうるせぇ……」
そんな眠りを妨げるくそ野郎はどこの誰だってんだ。
鍵を閉めたシャッターを乱暴に叩く音に、俺はソファから起き上がると、花切り挟みを両手に下へ向かう。
――今度こそぶっ殺す。
一週間以上ろくに眠ってねぇ俺に、安眠の時間を奪う野郎は椿以外は問答無用で罰してやる。
シャッターの鍵を開けて、俺は両手を振り上げた。
「死ねぇ!」
「危なっ」
殺してやろうかと振りかざした相手がKENNじゃなかったせいで、一瞬だけ躊躇してしまった。
そのせいで、両手を掴まえられ顔に刺さるギリギリで挟みは止まった。
そのまま貫通して風船のように弾け消えてしまえば良いと思える、KENNより会いたくなかったヤツだ。
「寒田」
「手荒い歓迎ですね、太陽さん」
ぴしりとしたスーツではなく、首もとが鎖骨まで見えるような緩い茶色のセーターで、ダメージジーンズみたいな、普段のストイックな姿とは正反対な姿。
完全に仕事がオフな日の、プライベートな姿だ。
「うぜ。次から次へと……勘弁してくれよ。マジで」
KENNの方がまだましだ。
――嘘をつかない分。
「俺が何しに来たか分かりませんか?」
強く掴まえられた両手が動かない。
寒田は今にも泣き出しそうな瞳で俺を見ていた。
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