105 / 206

結局、どっと疲れてしまった俺は、自室ではなく再びソファで眠ってしまっていた。 女なら、嬉しいのかもしれない。 騙されていいなら、あんな歯の浮く台詞で舞い上がってすぐに抱かれてしまえ。 俺は、遠慮どころかお断りだ。 ――うんざりなんだよ。 疲れたのとさっさと寝てしまいたくて、ビールを一缶飲み干して、こてんと眠ってしまった。 ガンガンガン ガンガンガン 「くそうるせぇ……」 そんな眠りを妨げるくそ野郎はどこの誰だってんだ。 鍵を閉めたシャッターを乱暴に叩く音に、俺はソファから起き上がると、花切り挟みを両手に下へ向かう。 ――今度こそぶっ殺す。 一週間以上ろくに眠ってねぇ俺に、安眠の時間を奪う野郎は椿以外は問答無用で罰してやる。 シャッターの鍵を開けて、俺は両手を振り上げた。 「死ねぇ!」 「危なっ」 殺してやろうかと振りかざした相手がKENNじゃなかったせいで、一瞬だけ躊躇してしまった。 そのせいで、両手を掴まえられ顔に刺さるギリギリで挟みは止まった。 そのまま貫通して風船のように弾け消えてしまえば良いと思える、KENNより会いたくなかったヤツだ。 「寒田」 「手荒い歓迎ですね、太陽さん」 ぴしりとしたスーツではなく、首もとが鎖骨まで見えるような緩い茶色のセーターで、ダメージジーンズみたいな、普段のストイックな姿とは正反対な姿。 完全に仕事がオフな日の、プライベートな姿だ。 「うぜ。次から次へと……勘弁してくれよ。マジで」 KENNの方がまだましだ。 ――嘘をつかない分。 「俺が何しに来たか分かりませんか?」 強く掴まえられた両手が動かない。 寒田は今にも泣き出しそうな瞳で俺を見ていた。

ともだちにシェアしよう!