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十三
せっかく叔父ができた椿に、叔父を奪うのは可哀想だが仕方ねえ。
「太陽さんは怖いとすぐ手が出ますよね。力で自分を守ろうとする」
その寒田の言葉が、昨日のKENNの言葉にリンクする。
『あんた、繊細で壊れやすいから力を身に纏って 武装してんだな』
どいつもこいつも俺の事を勝手に決めつけやがって。
「うるせえ。お前はそこで指でも咥えてろ」
ジーンズのポケットから携帯を取り出すと、指が震えているのに気がついた。
椿はどんな顔をするんだろうか。
自分が愛し合って生まれたわけじゃないと悩むのだろうか。
「ごめんなさい。怯えさせたました」
俺の手を携帯ごと寒田が両手で握りしめた。
「貴方とこうして向き合ってまた本音で話したかったんです」
握りしめた手を顔まで持っていき頬擦りする。
相変わらず情けない泣きそうな顔で。
「お前が……お前が人を悪く言ったり、俺を脅すような奴だと思わなかった」
「すみません……」
「今までのお前が『嘘』だったんだと思わせてくれるから、楽だけど」
疲れた。
拒絶して逃げ回るのは堪らなく億劫だ。
寒田が嫌いで嫌いで、――憎んでいる。
だが、それをぶつけて寒田を傷つけるのも、怒りで暴れまわるのもしんどい。
「本当に、お前なんかに会わなきゃよかったよ」
悪い意味でも良い意味でも。
本当に。
「すみません」
「手、離せ」
強く抱き締められていた手は、ピリピリと痛んだ。
発信履歴を見たら、三回も椿にワン切りしてしまった後だった。
「俺ともデートしてくれませんか?」
「もちろん嫌だ」
「…………」
俺の即答に寒田は泣き出しそうな顔をする。
「姉の墓参りに着いてきてくれませんか?」
「…………卑怯じゃねぇか」
「貴方の中での俺はこれ以上下がることがないぐらい評価が下がってますから、――手段なんて選びません」
「そうやってお前はいつもズルい」
「太陽さん」
「用意してくるから、地図だけ書いて消えてくれていいからな!」
「そんな事、死んでもしませんから」
帰れ。一生来るな。
そう思うのに、馬鹿な俺はアイツの卑怯な手から逃げられねぇんだろ。
脱力して階段を上がると、寒田は誰かに電話をかけ出した。
「すまないがラジオの収録入りは、一人で行けますよね? 子供じゃないんだし」
ん?
「ああ。一時間は遅らせてるから。ああ。大丈夫ですねま。デビューから欠かさず行ってるスタジオなのだから」
事務的に寒田がそう言うが、俺は両手で胸ぐらを掴む。
「お前、もしや雷也のマネージャーの仕事をサボってまで俺とデートしようとしてねぇか!?」
「まさか。そんな訳ないですよ」
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