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十五
「え!? お前ももし時間空いたなら帰ってこい よ。こんな奴と二人とか死ぬ」
今は一緒に居ないのかと思ったが、携帯の向こう側で微かに雷也の声もする。
お互い、同じ部屋に居ながらこちらに電話しているのかと思うと、奇妙な話だ。
『う――ん。でも、父さんと寒田さんの問題だか ら、邪魔できないよ。寒田さんがこっちに着いたら戻るから』
「だが今から墓参りに――」
それだけを伝えると、まだ俺は何か吠えていたが椿は通話ボタンを切りやがった。
くそ。どうせ俺より雷也が大事なんだろ。
雷也とか今度家に来たら殴ってやる。
今から寒田と二人きり……。
心が、
気持ちが、
重たくなっていく。
二人になんかなりたくない。
昔とはもう何もかも違うんだから。
だけど、俺はこれからも寒田を忘れることで平穏を取り戻すべきなのか。
ちゃんとお互い納得できるように絶縁をするべきなのか。
いや、今さらか。
「行くぞ」
花束を作業台に投げつける。
本当は下に降りたら、寒田が仕事だからと帰ってくれてたら嬉しかったのだが、その淡い希望も消え果てた。
ちょこんと作業台の端で遠慮して座っている寒田は――俺が知っている寒田のような気がして……。
俺もまだまだ情があるなんて甘いと思う。
「バイクで追うから先に車出せよ」
「車に乗ってくれないんですか!?」
「なんで乗らなきゃいけないんだ。嫌に決まってるだろ」
何も喋らない重い空間が、沈黙が、嫌になる。
堪らなく億劫になるから、想像さえもしたくない。
「分かりました。花束だけは座席に乗せておきますね」
「ああ」
短くそう答えた俺は、ヘルメットをかぶり沈黙する雰囲気へと連れ込んだ。
寒田は何度か振り返ると、車を発進させたので俺も続いた。
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