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十六

追いかけて、ただ行き先も分からずあいつの後ろを見る。 もし、――もし寒田が嘘を付かなかったら。 寒田と俺は出会いもしなかったのかもしれない。 そうすれば人を憎むなんて疲れる事もなかった。 お前を憎む事なんて。 18年経った今、あいつだって俺を昔のまま好きなわけではないだろう。 きっと意地になってるんだろ。 俺だって意地でもお前が大嫌いだ。 ――大嫌いだ。 車はそのまま丘の上の花畑へと向かった。 花畑の中に、墓が置かれている。 近くに寺も見えないからどんな仕組みなのか気になる所だ。 駐車場にバイクを止めると、先に降りた寒田が俺の作ったリボンの花束を眺めていた。 その瞳が、純粋で嘘つきだった18年前より深みが出ていて――なぜなか胸が切なくなった。 あの日からあまり表情に感情や喜怒が出なくなった俺には出せない表情だった。 「なんかけったいな場所だな。外国か此処は」 花束を奪いながら、花畑に埋もれる墓まで歩き出す。 「姉は、貴方が本当に好きだったんです。きっと貴方の花束の一部になるように花になりたかったんでしょう」 花束の一部……。 「枯れちまったら終わりなのによ」 ロマンチックすぎて欠伸が出てしまう。 「それでも貴方に触れて欲しいんです。――本当に姉弟揃ってバカばっかです」 力なく笑う寒田を後ろから蹴飛ばしてやりたくなった。 俺に触れてもらう為なら、嘘でも恋人になるし、花にでもなりたいと。 そんな事笑いながら言うな。 御墓の中を歩きながら、そこらじゅうに 花が咲き、緑の絨毯の上を歩くと、椿の母親の墓があった。 花が風に揺れている。秋桜にもよく似たこの花の名前が、すぐに浮かんでこなかった。色取り取りの花が咲く、秘密の花園のような丘の上の空間で、寒田と俺は無言を貫く。 墓はすぐに分かった。 椿がクリスマスに売りさばいたクリスマリースの残りで花のリースを作っていたから。 「椿はもう来たんだな」

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