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十七

「はい。数日前ですが」 「そうか。どうせ馨の事なんか覚えてないくせに、律儀だよなあ」 椿が作ったリースの横に俺の花束を置くのは何だか擽ったい。 馨が生きていたら……椿は今以上に幸せだったんじゃないか。 そんな迷いがぶっ飛ぶように、全力で椿に愛情を惜し気もなく捧げた。 だから、椿から母親の影を奪ってしまったのはちょっと申し訳ねーけどさ。 「お前と俺の息子は、すげー良い男になってたろ? 馨」 にやりと笑うと、隣で寒田が空を見上げて目をパチパチさせた。 「父も母も老いました。少しは貴方に八つ当たりした事を悔いています」 「ふうん。だが俺はお前の親なんかどうでも良いしもう顔も忘れたぞ」 八つ当たりされた記憶はあるようなないような。 けどもうどうでも良い。 「椿がもし会いたいと言ったら会わせてやればいいよ」 「そうですね。勝手ですけど、会わせたいです。会わせて、あの二人がどれだけ姉さんや太陽さんを傷つけたか知ればいいんです」 ……。 言葉も出て来ない。こいつは、過去の行いを悔い改めさせるために、親と椿を合わせたいのか。 椿と親が、孫と祖父母として会わせてあげるんじゃなくて。 こいつの思考もそうとう歪んでる。 「俺は、多分もうお前とは恋人とかそんなのにはならねぇし、これからも好きになることは無いと宣言しておく」 未練を持たれても困るので、それははっきり言っておく。 馨の前ではっきりと。 「じゃあ、KENNを選ぶんですか?」 「だから、なんであのナルシスとが出てくるんだよ。あいつは、椿が駄目だったから、新しい玩具として俺に言い寄ってるんだろ。あいつは、自分からは抱こうとしないぜ? こっちをメロメロにさせて、虜にさせてからこっちから懇願させたいんだろ? ――だが、俺は男となんか二度と恋愛しない」

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