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十八
花束を見つめていたが、立ち上がり、まっすぐに寒田を見た。
「男となんか恋愛しないって決めたのは、お前のお陰だよ、ありがとう」
「太陽さん」
「俺とお前の関係を、椿にばらすって脅迫するなら抱かれてやるよ。俺の良い所、感じるところ、お前は全部知ってるんだから、気持ち良くなる行為だけなら関係は続けてもいい」
「そんなに、そんなに、俺がした過去のことは貴方の心を傷つけたんですか?」
くしゃくしゃに顔を歪めて泣きそうになっている。
そのまま、泣き崩れても多分、俺はもう触れたくもない。
「お前にはもう過去なんだよな。そうだよな。――俺にとってはその嘘は椿を見るたびに『今』になる」
さわさわと風に花がなびいている。
きらめいて、眩しい太陽の光に目を奪われる。
綺麗で、まるで秘密の花園のような御伽話の世界で、現実は酷く残酷だった。
「お前はさ、嘘さえ付かなかったら誠実で良い奴だと思う。いい加減、幸せになっちまえよ」
本音だった。
多分、本当に俺達の恋は終わっていると思うんだ。
不器用な寒田は、言葉を詰まらせた。
だから、俺はそのまま横をすり抜けて駐車場へ戻る。
触れることも叶わない。
嘘を紡ぐ言葉も聞きたくない。
唯一、触れる体温だけは許すなんて。
それはもう、心は要らないと否定しているのだから。
「太陽さん!」
振り返らず、ヘルメットを掴んでいた手を引っ張られると、隣に止めていた車の後部座席へ押し込められた。
そのまま押し倒さえて、寒田が上に跨って来た。
見下ろしてくる寒田の目は、悲痛の色を浮かべ、こうすることでしか去っていく俺を繋ぎとめられないのだと心で泣いていた。
寒田の背中の向こうには開けられたままのドア。
ドアの向こうに、馨の墓が見えた。
花に囲まれた墓が。
荒い息を吐きながら、寒田は迷っている。
このままここでヤッたとしても恋人にはなれないことを。
でも欲しい。
でも、繋がりたい。
18年経っても、こいつは俺に対してはずっと不器用なままだ。
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