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二十

「腰、痛っ」 椿もどうせ帰って来ないだろうと、寒田と別れてから一人で永遠とバイクでドライブした。 気まずそうな寒田の頬を俺は優しく撫でて、唇に親指を這わせた。 『また、溜まったら来いよ』 その言葉に呆然としていた寒田が、憐れで面白かった。 気持ちよくなったら、もうそれでいいんじゃねえの? 気持ち良くなった後に後悔するなんて、心が弱い証拠だ。 俺は、この関係だけなら寒田をもう憎まないで済む気がする。 これなら、憎まない。 ただ、寒田だけが傷ついてしまうだけ。 楽でいいよね、俺は。 めちゃくちゃに寒田を傷つけたって、自分の過去が幸せな結末に塗り替えられるわけでもないのに。 ガサガサとポケットから何かないか探して、口の中に飴を放りこんだ。 甘い、チョコレートの味がする飴を舐めながら、そうか今日は俺何も食べてないなとやっとお腹が空いている事を自覚した。 「見つけた」 思わず飴を飲みこみそうになってしまったその声は、ハスキーなナルシスト野郎の声だった。 長ったらしい前髪を掻き上げながらそいつは俺に近づいてきた。 「店でずっと待ってても帰って来ないからさ、ここら辺のドライブ出来る場所片っ端から探したんだぜ?」 「お前、暇人だな」 呆れた声でそう言うと、そのナルシスと改めKENNが俺の真ん前までやってきた。 「あんたが俺を呼んだんだ。だから探した」 「呼んでねーよ」 「呼んだ。俺は間違えてねーよ。あんたは俺を呼んだ」 自信満々に笑うKENNが、ゆっくりと俺の頬を触る。 頬を触ると、コロコロと口の中で転がしていた飴を親指で押す。 止めんか、馬鹿。 「だって、仕事で次の日は疲れて死んだように眠るって言ってたのに、帰ってこねーんだから。帰りたくないような、なんか嫌なことがあったんだろ?」 自信満々に笑いながら、何でこいつはこうやって人の核心に迫って来るのだろうか。その通りだよ。 「お前が家に来るのが嫌で、逃げてたって線もあるぜ」 「そうやって壁を作ろうとしても無駄だから。もう大体、あんたの繊細さは掴んできたる」

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