116 / 206
二十一
あっそ。
じゃあ、良いかもう別に。
「元カレとやらに18年ぶりに抱かれてみた。誘ったのは俺だけど」
どうだ。
言葉も出ないだろう。
勝ち誇った顔で俺が嘲笑うと、一瞬だけ目を丸くしたKENNがすぐに不敵の笑みを浮かべる。
「で、気持ち良かった?」
「まあまあかな。処女じゃなくなった、ぐらいしか感想は残らなかったけど」
普通、仮にも口説こうとしている男に、えっちの感想聞く奴がいるか?
こいつ、馬鹿なんだろうか。
「俺なら、太陽さんをそんな顔させないのにな」
「そんな顔?」
どんな顔だといぶがしげに見ると、KENNは優しく笑う。
昨日の、落ちて来そうな月のように優しく。
「悪役になりきろうと、強がってる顔。――可愛いんだけどな」
そんなふうに馬鹿にされるぐらいだから、俺は悪役になりきれない情けない顔をしているんだろう。
「この飴、甘過ぎてまずい」
「甘過ぎて?」
脈拍もない俺の言葉を、KENNは戸惑いもなく拾い上げて、繋いでいく。
「そ。食べてみるか?」
そう言って、舌を出して、舌の上に飴を転がせた。
もちろん悪役になりきれない顔で、だ。
KENNはまたやんわりと断るかと思ったが、躊躇せずに舌ごと飴を口に咥えて奪い去った。
寒田と身体を繋いで来た今は、KENNの体温は嫌いではなかった。
「確かに甘いな」
コロコロと舌先で転がす様子は、なんだかちょっとだけ素朴で可愛かった。
「可愛い?」
「お前ってずっと思ってたけど、俺の気持ち読んでね―か? 気持ち悪いな」
苦笑すると、KENNは徐に飴を噛みだす。
「気持ち悪くても、――俺がアンタを離さないから」
自信満々にそう笑うと飴を全部噛み砕いて飲み込んでしまいやがった。
「俺、どっちかと言えば淡泊なんだよな」
「俺はしつこいよ?」
聞いてねーと思いつつも話を続ける。
「女を抱くのは、快感を求めると言うか一人が嫌な夜に誰でもよかっただけだ。お前だってそんなもんだろ? 視線を絡めて、イケそうなら抱いちまうだろ?」
「以前はそうだったかもな。アンタが育てた椿ちゃんに会う前は。で、アンタに会ってからは真面目だぜ?」
ドサクサにまぎれて口説こうとするその度胸はもう認めるしかねぇけど。
ともだちにシェアしよう!