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二十二
「これからも、身体だけならまあいいかと思ってる。憎むよりはセフレって奴にして思い出ごと汚してしまう方が――いい」
そうだ。その方が楽なんだ。きっとこの方がお互い、楽なはずだ。
「あんた、此処で何をしてるかと思ったら」
嘲笑うかのように余裕のKENNが、俺の唇に触れた。
どうでもいい、このままKENNに抱かれてももう良い気さえしてきた。
自分の意志が無い、快楽に溺れる馬鹿になりたい。
「俺に止めて欲しいんだろ?」
「はあ?」
「そんな馬鹿な真似するなって。――俺でいいじゃねえか、もう」
決められた台本の様に、棒読みでそう言うとクスクスとKENNは一人で楽しそうに笑ってばかりだ。
「あんたの繊細な心じゃ、そんな関係すぐにあんたを壊しちまう。だから、俺に止めて貰いたいんだろ? 止めとけ。今から俺が壊すんだから、他の奴で壊れるのは止めとけ」
「お前は、俺が他の男に抱かれるのは嫌か?」
「え? 好きなんだから嫌に決まってんだろ」
こいつも面倒な奴なのかと一瞬脳裏に浮かぶが、KENNはそれ以上に面倒くさい奴だった。
「ただし、俺は太陽さんには怒らねえよ。手を出したやつを再起不能にしてお終いだ。魅力が無くて浮気されたんなら、俺より魅力的な男を目の前から消せばいいんだから」
「お前がもっといい男になる選択肢はねえのかよ」
「これ以上魅力的になる方法ねぇ」
本気で首を傾げるこいつは、ナルシストすぎて引く。
気持ち悪い奴だ。
「お前、馬鹿じゃねーの」
「うん。アンタの前じゃ、恋に慌てふためくただの馬鹿だよ」
「キモっ」
「そうだ。俺、太陽さんに連絡先を聞こうと思って探してたんだよ。店じゃ椿に警戒されるから、LINE教えてよ」
「あ? してねーよ」
椿と連絡する度に、LINEは確かに何度も登録してとは言われてるけど。
「電話番号だけでよくね?」
マメに連絡を取るような性格じゃねえし。
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