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四
花束ごと、KENNに奪い去られてしまったようだ。
穏やかとは言い難いが、二人の撮影が始まり、
「寒田さん、寒田さんは何のために、また親父の前に現れたんですか?」
先ほどの花束が、KENN宛だったのがよほど不満だった椿君が、早口でそう言った。
それでも、雷也宛だっただら、彼の存在が危なかったので、大騒ぎせず俺だけに言う。
雷也は本来、恋愛系の歌を歌わない人間なので、椿くんが雷也の専属作詞家だと知れたらそれこそ、熱狂的なファンに恨まれるかもしれないから。
それでも椿君は、雷也の傍を選んだ。
この顔だけは極上の、ガキに。
何のために俺が太陽の前に現れたか?
簡単だよ。
まだ、好きだから。
会えない年月、後悔と愛情は薄まらなかったからだよ。
こんなに――18年も会わなかったのに、俺は昨日の様に太陽の事が好きなんだ。
例え、身体だけの関係を望まれても。
そこに、俺の存在を刻めるならば。
椿君を脅しのネタにして、デートを強行しても。
「どんなに太陽が逃げても、キミと雷也が仕事で会うのだから、向き合わなければいけないんです」
「俺達のせいにするんですか? 俺達を口実で再会しておいて、俺達を理由にして自分を正当化するんですか?」
「椿君?」
思いつめた椿君の表情と裏腹に、スタジオ内でドッと歓声と笑い声が上がった。
KENNと雷也を見ると、二人が自分のTシャツを口に咥えて、挑発的に中指を立ててカメラにポーズしていた。
腹の筋肉が引き締まっている二人のそのポーズはふざけているが、女性スタッフは大興奮だった。
「すいません。親父と寒田さん二人の問題なのに」
「いえ。こちらこそ、心配かけてすいません」
「でも、KENNって嫌な奴だけど、田沼さんに暴力を平気で奮ってたやつだけど、でも、きっとあいつ、良い所があるんです。それが悔しい。悪役は――悪役のままで居ればいいのに」
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