123 / 206

花束ごと、KENNに奪い去られてしまったようだ。 穏やかとは言い難いが、二人の撮影が始まり、 「寒田さん、寒田さんは何のために、また親父の前に現れたんですか?」 先ほどの花束が、KENN宛だったのがよほど不満だった椿君が、早口でそう言った。 それでも、雷也宛だっただら、彼の存在が危なかったので、大騒ぎせず俺だけに言う。 雷也は本来、恋愛系の歌を歌わない人間なので、椿くんが雷也の専属作詞家だと知れたらそれこそ、熱狂的なファンに恨まれるかもしれないから。 それでも椿君は、雷也の傍を選んだ。 この顔だけは極上の、ガキに。 何のために俺が太陽の前に現れたか? 簡単だよ。 まだ、好きだから。 会えない年月、後悔と愛情は薄まらなかったからだよ。 こんなに――18年も会わなかったのに、俺は昨日の様に太陽の事が好きなんだ。 例え、身体だけの関係を望まれても。 そこに、俺の存在を刻めるならば。 椿君を脅しのネタにして、デートを強行しても。 「どんなに太陽が逃げても、キミと雷也が仕事で会うのだから、向き合わなければいけないんです」 「俺達のせいにするんですか? 俺達を口実で再会しておいて、俺達を理由にして自分を正当化するんですか?」 「椿君?」 思いつめた椿君の表情と裏腹に、スタジオ内でドッと歓声と笑い声が上がった。 KENNと雷也を見ると、二人が自分のTシャツを口に咥えて、挑発的に中指を立ててカメラにポーズしていた。 腹の筋肉が引き締まっている二人のそのポーズはふざけているが、女性スタッフは大興奮だった。 「すいません。親父と寒田さん二人の問題なのに」 「いえ。こちらこそ、心配かけてすいません」 「でも、KENNって嫌な奴だけど、田沼さんに暴力を平気で奮ってたやつだけど、でも、きっとあいつ、良い所があるんです。それが悔しい。悪役は――悪役のままで居ればいいのに」

ともだちにシェアしよう!