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いざ、尋常に勝負!

「ねえ! 聞いてるの!? 送り主のない花束なんて送ってさ! KENNが調子にのるじゃんか!」 「あーー? 送り主が書いてないなら俺が送ったと決めつけるのはおかしくねーか」 缶ビール1本でほろ酔い気分だった俺は、やっとホワイトデーの修羅場をくぐり抜けた後だ。 俺と寒田の話には首を突っ込むのを我慢していたはずの椿だが、KENNの事は別らしい。 「そうじゃないよ! KENNはゲイだよ。あんま、その、気を持たせるようなことは」 「あ? 俺がKENNなんかに押し倒されるとでも言うのか?」 「……もういいよ」 酔っ払いに何を言っても無駄と悟ったようだ。 寒田はどんな顔をしてただろうか。 傷ついた顔をしていたら面白いけど。 「KENNの好意を利用して寒田さんを傷つけようとしてない?」 「してねーよ」 思いっきりしてるけど。 「別にもういいけどさ。でも今日ね、女性スタッフもちょっとびっくりしてたよ、KENNの背中」 「背中?」もう一缶飲もうか悩む所で、明日は朝早くからバイクを飛ばしたいし我慢しようと思いとどまっていた。 だから、椿の言葉なんてあんま頭に入っていなかった。 「前、言ってたじゃんか。虐待痕ってーの? まあKENNはミュージシャンだから、モデルみたいに背中を露出することは無いんだと思うけどさ」 田沼にお金をせびってたキャバ嬢の子供だったっけ? そんなカビ臭い過去があるようには見えなかったけど、人って色々だなあ。 「子供を傷つける親なんて親の資格はないよ。ぶっ殺せ!」 「あんま、飲む過ぎるなよ」 ジャンバーを羽織りながら、椿が俺を呆れた眼で見ている。 「ああ? どっか行くのか?」 「うん。仕事ももう終わったし、雷也の打ち上げにお邪魔してくる」 真っ赤になりながらそう言われたら、打ち上げ後も何かあるんだろうなと分かっちまうだろーが。あほ。 「ほーい。行ってこい行ってこい」 俺もやっぱもう一個、ビールを追加しようとして冷蔵庫を開けたら、空っぽだった。 仕方なく倉庫にビールを取りに行くと、やけに大きな段ボールを見つけた。 ――嫌な予感がする。

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