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三
AM:03:19
side:KENN
「ったく。打ち上げだけの予定が、四次会まで付き合わせれちまった」
煙草を吸いながら、苛々とライターを握りつぶす。
「雷也さんも帰られないんですから、仕方ないですよ」
おどおどしたマネージャーの様子にも苛々する。
俺をデビュー当時からずっと変わらず担当しているから、気が短いのは理解してくれているが、権力に媚びへつらうその姿勢だけは俺は大嫌いだった。
撮影は、無事に終わったし、打ち上げだけでさっさと帰って、明日の朝には太陽をバイクに誘うつもりだった。
なのに、直々に出版社のお偉いさんが打ち上げに参加したり、こいつに撮られたら売れると言うジンクスの有名カメラマンの写真が飾られている店に呼び出されて、仕事を持ちかけられたり、次々に機嫌を損ねたら面倒な奴らが現れて、帰ろうとする俺を、マネージャーが泣いて止める。
お陰でこんな時間になってしまった。
雷也は明日仕事だからと嘘を言い、椿とやっとさっき解放して貰えていた。
あいつも苛々してたから、大層燃える夜を過ごすだろう。
俺はというと、マネージャーが権力に屈し、未だに解放されていなかった。
俺だけは、5分置きにこうして煙草に消え、早く帰りたいと匂わせているのに。
二箱目を握りつぶしていたら、携帯が鳴った。
03:19
ふざけた時間に、携帯が。
だけど、その電話は、今まさに溜まっていた苛々が全てぶっ飛ぶような相手だった。
会いたくて堪らなかった相手だ。
「もしもし? 俺もアンタの事をずっと考えてたよ」
うきうきと電話を取ると、数秒無言だった向こう側から小さな声で俺の名前を呼んだ。
『じゃあ、今すぐ来い』
「――どういう意味で?」
思わず零れる笑いに、電話の向こうからは色気のない返事が返って来た。
『仕事が間に合わないから、手伝えって意味で!』
その可愛げがない言い方に、思わず喉からくくっと声が漏れた。
このつれないところが、堪らなかった。
「じゃあ、今すぐ行くよ」
マネージャーに挨拶もせずに、そのままタクシー乗り場まで向かう。
こんな時間だが、1台だけ停まっていた。
走っているタクシーを止める手間が省けて、良かった。
そのまま向かうと、一人のスーツの男がタクシー乗り場に居た。
走り去るタクシーを見ているそいつは、寒田。
大方、やっときたタクシーに乗った雷也を見送ったのだろう。
俺に気付いて、視線があった。
「悪いが、先にタクシー乗っていいか? 用事ができたんでな」
にやりと笑いと、露骨に嫌そうな、軽蔑を浮かべた顔で此方を見た。
「別に男を抱きに行くわけじゃねーよ? 太陽が助けを呼んだんだ。仕事でトラブルがあったらしい」
つい挑発的にそう言ってしまった。
こいつの屈辱で歪む顔が見たくて。
どうせ、昔、太陽を傷つけた相手だ。
優しくしてやるつもりはねぇし。
「アンタじゃなくて、俺に助けを呼んだんだ」
ついつい、そう言ってしまった
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