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二
眠りこけているKENNの枕元に置いてあったバイクのキーケース。
むかつくから拝借しておいた。
あれがなきゃ、仕事に困るなんてねえだろうが、どんな顔して取りに来れるかが見物だ。
もちろん、恋人になってあいつを満たしてやる快感なんか暴力なんか分からない行為をしてやろうなんて気も全く起きないし、これからも起きない。
ただ、大きい身体で縋ってくるあいつは、ちょっと寂しい奴じゃないかなって思う。
愛されたくて、必死に周りに愛を囁く。
んで、やっと相手が自分に堕ちてきたら、本性を見せるなんてさ。
部屋に入って、窓ガラスに映る自分の姿を見て、苦笑してしまう。
少し、タートルネックの首の部分を、指で下げて確認してみると、
KENNの指の痕がはっきりと残っていたのだから。
「だっせえの、俺」
ガキにこんなに振り回されたのは、初めてだった。
それと反対に椿と来たら、ほんとうに性格も曲がらず良い子に育ったもんだ。
不貞寝して、本当に次の日まで起きて来なかった俺に、椿は甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
「あのさ、別にお前だけが悪くねえんだから、そんなに気にすんなよ」
「でも」
「良いから、さっさと仕事に戻れ。男は計画性がねーからな。ホワイトデーのお返し用の花なんぞ、ぎりぎりにわっと注文くるぞ。早めに注文させるようにホームページのトップにホワイトデー特集ページ作るんだろ」
甘いココアを飲みながらそう言うと、椿もはっとパソコンを立ち上げる。
「今年のデザインを載せておかなきゃ。ケーキ屋からホワイトデー用のミニ花束も結構な数の注文来てたよな」
「あそこのケーキ屋は美味しいからついOKしてしまったが、早めに取り組めよ。お前ならできる」
「俺任せ?」
いつまでも椿は俺の補佐みたいな仕事ばっかしてるから、そろそろちゃんと表に立てばいいんだ。
俺が死んだら、この店を閉じるなら問題ねえけど。
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