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四
『それが朝起きたら、心ごと無くなっちまってたんだよ』
フッとKENNが笑うと、一瞬ポカンとした雷也の間抜けな顔が笑える。
そりゃあKENNみたいなヤツがキザな話をすればそうなるだろ。
『お前、女のファンが多いんだから発言に気を付けろよ』
『話をふったお前が言うなよ。俺からファンを減らしたいのかと思ったけど?』
『そんな姑息な真似をするかよ。馬鹿じゃねーの?』
「雷也さん……」
椿が二人のやり取りに頭を痛めている。
頭が痛くなるのは分かる。生放送でこんなガキみたいな話をするな。
こいつら喋らない方がまだマシだ。
『女は一人に決められないが男は一人に決めたぜ』
KENNがそう言うと、腐女子臭い黄色い歓声が上がる。
『因みに雷也みたいなガキじゃねーぜ』
『そりゃあ良かった良かった』
二人のやり取りに、司会者までもが腹を抱えて笑っている。
「ただの……ギャグだよね? その場を盛り上げる為の嘘だよね」
「俺を見るな俺を」
疑って目で見てくるが、それ以上見てきたら、雷也との関係を聞いてやるぞ。
自分の首を絞めることだけは止めとけよ。
一触即発の雰囲気だったが、一人の老人の声でその修羅場から解放された。
「ごめんくださいな」
「田沼さん」
椿がすぐにエプロンをつけて店の前まで出迎える。
杖を付き、着物を着たよぼよぼのじいさんだ。
こいつの名前もあやふやにしか知らなかったんだが、どうやら音楽の教科書にこいつが作詞した曲が何曲も載っているらしい。
椿が押し入れから教科書を取り出して感動していた。
多分、俺も聴けばしっている曲が何曲もあるんだと思う。
「あのさ、悪いけどちょっと上がってくれますか?」
普段使わない敬語に、椿が飛び上がったが、よぼよぼのじいいさんは笑顔で答えてきた。
「ワシに話しかな?」
「KENNについて」
即答すれば、温和そうな顔がカッと目を見開く。
流石、音楽界の権力者。
頭の回転が速そうだった。
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