144 / 206

椿が珈琲を入れて、ひやひやしながら俺と田沼のじいさんを交互に見比べている。 心配しなくても、大した話はしないけど。 「アンタ、どうして今さらKENNの前に現れてんだ? ってかあんた独身?」 「母親を亡くして、未成年だった彼の後継人としてじゃったかな。高校を全く行かず、事務所と寄付金でなんとか卒業したがそれさえも迷惑そうだっだ。ワシは若いころに遊びまくったツケで今は寂しい老後生活だよ」 「15で母親が死んで高校行ってね―とか言ってたのかそれか」 「KENNが貴方に何かしたのなら、儂からもお詫びするが、もう儂は椿君の一件で縁を切っている。お力には」 「じゃあ、なんでKENNに期待させるような真似させたんだよ。親なら、何があっても子供の味方になるか他人のように無関心で必要ないならポイだよな」 珈琲を飲みながら、穏やかだった顔が剥がれ落ちていくのが分かる。 「アンタ、身内も居ないならKENNを引き取って仲良く家族ごっこしたかっただけだろ。今までずっと見捨ててたくせに。で、家族ごっこが出来なきゃまたポイだもんな」 「親父、KENNは田沼さんに酷い暴力を」 椿が止めに入ったが、俺はそれすらも鼻で笑ってやった。 「そりゃあ、KENNの歪んだ愛情だから仕方ねーよ。それでもまだ父親面すんのが俺は気に入らなかったんだよ。俺なら、――親に捨てられた俺なら、暴力をふるいたくなる気持ちが少しだけ分かったからな」KENNが試した暴力の意味は、俺も分からないけれど。 ただ、今さら放って置いた癖に、自分が寂しくなって擦りよってくるのは違うと思ったんだ。 「やけに、KENNの肩を持つんですね」 その声に、その場に居た皆が、一斉に振り返った。 今さら、会いたくもなかったそいつがいる。 「寒田さん、生放送じゃあ……」 「明日から、プロモロケで一週間沖縄に向かいますので。今しか太陽に会えないと思いまして」 律儀に説明をしてくる寒田に嫌気がさしながらも、今だけは、――本当に今だけは会いたくなくて、だがそれも気づかれたくなくて、睨みつけてしまった。 「今は、田沼のじいさんと話をしてるだけだよ」 「同じ親の立場として、説教ですか? 別に田沼さんは望んでKENNの後継人をした訳じゃないのに」 その冷たい言葉に、俺は腸が煮えくりかえるかと思った。 「それを俺と椿の前で言う気か」 胸ぐらを掴んで、寒田にしか聞こえないように低い声で言う。

ともだちにシェアしよう!