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七
外へ飛び出そうとした俺を、寒田は後ろから抱き締める。
離さないと、力強く。
「貴方のそんな姿を見るのは辛いから、関係あります」
震える腕で、俺を抱き締める寒田は、本当に、本当に――馬鹿だ。
「太陽が傷つけられるなんて、耐えられない。どんな傷でも俺が受けるから、だから、どうか――」
懇願するように、俺の首に擦りよる寒田が痛々しくて、俺は、その腕を振りほどけなかった。
「何でだよ。なんでお前はそんなに変わらねーンだ」
「変わらないんじゃありません。忘れられないだけです」
擦りよる寒田の腕の温かさに胸が熱くなる。
こいつは、あんな嘘で俺を裏切っていたくせに。
なんで、そんなに純粋なままなんだよ。
「俺はお前に傷つけられた分、お前を傷つけようとした。本当に最低な奴なんだよ」
「それは俺が悪かったので、気にしません」
寒田の腕の中で、俺は自分の性格の悪さに吐き気が込み上げてくる。
俺が傷ついたのだから、お前が傷付かないのは許せない。
もういっそ関わりたくない、忘れたい。
俺はそう思っていた、ずっとずっとそう思っていた。
18年間、寒田がどんな思いでしていたとか苦しんでいたかなんて考えず、自分の事ばかり。
なのに、お前はなんで俺の傷跡を自分の事のように、傷付いているんだよ。
「太陽は、本当にKENNが好きなんですか?」
「は?」
揺らぐ気持ちの中、現実に引き戻されるその名前に、思わず首が痛みだした。
「ただの同情だったり、同じ境遇だから放っておけないと思っているのなら止めて下さい。彼は暴力でしか愛を満たせない。貴方がボロボロになるのを見たくない。絶対に」
好き――。
好き、?
そんな思い、とっくに忘れていたよ。
お前の腕の中へ忘れて行った気持ちだ。
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