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十
「やっと、貴方と話せて嬉しいです。太陽」
「……そうか」
どんな顔をしていいのか、――どんな顔をすればいいのか俺には分からない。
今まで散々に傷つけても足りなかった。もっと傷つけても構わないと思っていた。
このまま、俺は一生の柵をこいつへむけていく自信はあったから。
「俺が変われたのは、やっぱこんな最悪なきっかけのお陰だと思うと悔しいけどな」
首元を思い切り下げる。
今も、あの首を絞められたまま抱かれた熱が籠っている。
良くも悪くも、あの感触が消えない。
「お前は、俺の事を知ってるからきっと何があっても俺の事を信じてくれるんだろうけどさ、今、お前は問答無用でKENNを否定しただろ?」
首を掻きながら笑うと、寒田は無意識でKENNを否定していたことに気付いたのだろう。
「親なら、俺なら椿を問答無用で信じるさ。でも、あいつは今みたいに、田沼みたいな親みたいに、誰からも信じて貰えてないのかもしれない。俺はそれが嫌なんだよ
」放っておけないと言うか、俺から仕掛けてしまったんだし、とも思うし。
それでいて二度と会いたくないと殴りたい気持ちもある。
KENNへの気持ちは、他人に伝えるのは難しい。
「じゃあ、やはりKENNのキーを盗んだのは太陽でしたか。あの話でピンと来て生放送なのに雷也を放って来てしまいましたよ」
「いい加減、来るなよ」
悪態を付きながらも、溜息が出てしまうのもまた本音だ。
「悪い。やっぱまだお前を見ても、普通に接するのは無理だ。――きっと、今までどおりの対応はもうできない」
「そうでしょうね」
「だから、やっぱちょっと距離が欲しい。俺の馬鹿みたいな意地がお前を傷つけない距離が欲しい」
「……そうですね」
やっと緊張していた腕の力が弱まった。
そのまま俺が車から降りてももう力づくで止めようとはしない。
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