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十一

「貴方が――」 「あ?」 「貴方が、自分から関わろうとしたのは、KENNが初めてですよ。知っていましたか?」 そう尋ねられても俺にさえ自覚は無かった。 「それは、知りたくもなかった」 馬鹿みてえじゃねーか。俺が。 「沖縄の」 ぽとりと落とすように寒田が言った。 「沖縄の土産は何が良いですか?」 「そ」 そんなの要らねえと言いそうになって口を噤む。 そんなに拒絶ばかりしたら、今謝った自分が嘘のように感じるだろ。 「何でもいい」 ぶっきらぼうに言うと、寒田は俺を見て微笑んだ。 「では甘いものを買ってきます」 俺の好みを知るからこその判断だった。 「どうか、それ以上の傷が増えませんように」 「増えねーよ」 「それでも太陽は、KENNに会いに行くって分かっているからこそ、心配なんですよ」 「いい加減、心配なんかしてくれるな。もう帰るから、お前も仕事ちゃんとしろよ」 「はい。急にすいませんでした。おやすみなさい」 「おう」 そう言って、有料駐車場から出て行く寒田。 車は、18年前に乗っていたあの車よりも明らかに高級で、ベビーシートが乗っていたあの車はもうどこにもないのだと、改めて時間の経った現実に胸を抉られた。 距離は、俺が拒絶を止めたのだから、閉じていた道が開いた分、近くなったかもしれないのに、胸を抉るこの焦燥感は何だろうか。 寂しい。 苦しい。 寒田とこのまま友人に戻るのは、切なくなる。 辛いんだとさえ、甘えた考えが浮かぶ。 消えて行った寒田を見るのさえ、胸が痛んで俺は走って家へと向かった。 椿がいる俺の家へ。

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