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十二

とっくに生放送の一時間枠の番組は終了していた。 俺と寒田が話していたのはほんの数分に感じていたのに、どうやら一時間以上話してしまっていたらしい。 家に居るはずの椿の姿が何処にもない。 仕事が山積みな今、ほっぽり出して飛び出すわけはない。 「椿なら30分ほど時間を潰しにコンビニでも行くって言ってたぞ」 かちゃんと鳴った方角へ振り返ると、汗だくのKENNが立っていた。 俺の愛車の上に座って、汗でぬれたTシャツをパタパタと仰いでいる。 ってか、何でこいつまで此処にいるのか。 あの生放送の音楽番組、呼ぶミュージシャンの趣味が悪すぎる。 雷也のマネージャーも、KENN本人も番組そっちのけで何をしているのか。 「鍵返して貰おうかと慌てて逢いに来たぜ」 「昨日の今日で、よくのこのこと俺に会いに来れたな」 「まだ、俺の心は返してもらってないからな」 押し付けただけのくせに。 「その割には、お前余裕ないだろ」 律儀にも用意してある携帯灰皿にはもう入りきれないほどの煙草の吸殻が入っている。 汗だくだし。 収録が終わったあとだって色々あるはずなのに、急いで俺の所へ来るとは。 「アンタを連れて行かれるかと思ったから」 「は?」 「雷也のマネージャーが、俺のトーク中に消えたからさ。くそ真面目な奴が生放送の収録中にだぜ? 俺は終わるまで飛び出せなかった分、あいつより真面目だぜ? ご褒美にキスしてよ」 「うるせーな」 一応、仕事中に飛び出さないという常識はあったらしい。 「冷たい言葉を言いながらも、顔に出てるぜ?」 「顔には表情が出にくいと評判なんだけど」 「泣きそうな顔、してる」 最後の煙草を、無理矢理携帯灰皿に押し付けると、俺の方へ近づいてくる。 「許すと、気持ちを受け入れるのは、全然違うところから生まれる感情だけどさ」 「――は?」

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