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十六
飛行機の中で、離陸する瞬間、身体を強張らせた俺にKENNはキスしようとして、それを止めた。
代わりに、自分が付けた傷跡に舌を這わせて、俺の緊張を和らげようとした……らしい?
離陸前は席から動いたらいけないという指示に緊張していた俺に、そんな指示無視してKENNが重なる。
初めての飛行機で緊張した俺は、ただただ夢中で目の前にあるKENNの首に噛みつくことしか八つ当たり出来なかった。
「うげ。見ろよ、もうビルや家がゴミみたいに小さいぜ」
「うるせえ。夜はカーテン下ろせって指示があったろ」
どうせ、もう外なんて真っ暗で見えねーよ。
ファーストクラスとかいう席だが、平日の最終便の飛行機のせいか他に人も乗ってない。
おかげでちょっとだけ楽だ。
後ろの席を覗くと、隣との距離が全くなくて、ゾゾゾと背中に悪寒が走る。
しきりもあって、テレビもあってベットみたいなソファのこの席は、まだマシなのかもしれない。
「あのさ、太陽」
「何だよ」
もぞもぞと足を伸ばしながら、KENNはアイマスクを取り出す。
「寝るから、夜這いしろよ?」
黒のアイマスクをして、さっさとソファに眠ってしまった。
まじでこいつ、寝るつもりか。夜這いするかっての。馬鹿じゃねえの。
着いてからホテルで寝ればいいのに。
CAが行き来するような所でよく眠れるよな。
俺はまだ少し、生まれて初めての飛行機に緊張してしまっていた。
ちびちびとアルコールの力を借りるが、眠気なんて一向に来ない。
――面倒くせえよ。
こんな、性格は図太いくせに人混みが苦手とか、面倒だろ俺。
良い所なんて無ねぇよ。
抱き心地がいいとかいいてぇのか?
なのに片や18年も思い続け、
片や、忙しくて全く眠れてないのに――俺の為にこんな事してくれて。
俺なんかの何処がいいんだよ。
この飛行機の下の、豆粒みたいなビルや家に、俺より良い奴なんていっぱいいるだろう?
何で俺なんだよ。
俺もどうして、どうしてこんな奴に心を乱されて、
今さら寒田なんかに焦ってるんだ。
ぐちゃぐちゃで、何だかどこにも手を伸ばしても届かなくて不安になってくる。
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