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十七
「太陽」
今は、俺の名前ですら、心をかき乱す鋭い剣のようだった。
「太陽ってば」
「なんだよ」
「せっかくだから、夜の海でもいかねえ?」
飛行機で沖縄に降り立って、タクシーでホテルへ向かうと、南国風のしゃれたホテルへ到着した。
KENNだから、高級ホテルを予約するかと思ってたが、こんなリゾート風の遊びを取り入れたホテルにするとは思ってもいなかった。
ロビーに飾られた華が、色鮮やかで、高級感は全くないが、賑やかな感じで楽しい。
部屋も、オレンジ色の証明に広いバルコニー。
部屋の色が暖色に統一されてちょっと落ち付かなかったが、一番の不満はダブルベット。
「おい、何でベットが一つしかねえんだよ」
「そりゃあ、俺が太陽と一緒に寝てえからだろ」
煙草を取り出すと、いそいそとバルコニーへ向かうKENNに対して軽い殺意が湧く。
「冗談じゃねーぞ。俺はソファで寝る!」
「ソファも狭いが俺も寝れるか」
こいつ、何としても俺と一緒に眠りたいようだ。
「首を閉めない保証は?」
「ムラムラするから分かんねえ」
「――俺は、あんなセックス好きじゃねーよ。二度とお断りだ」
はっきり言うと、KENNはバルコニー―へ行く手を止める。
「普通のセックスなら、――また俺に抱かれてくれるのか?」
「……」
一番答えにくいその言葉に、思わず口を噤む。
「俺はやっぱ、繊細で恋愛下手な太陽が欲しいよ。寒田に渡したくねえ」
その言葉は、KENNを顔も見たくないぐらい嫌いだったら、迷惑だったかもしれない。
嫌いになれたら楽なのに。
俺は、いつの間にか。
「太陽」
こいつの隣の居心地の良さを知ってしまっていた。
今は、俺の名前ですら、心をかき乱す鋭い剣のようだった。
「太陽ってば」
「なんだよ」
「せっかくだから、夜の海でもいかねえ?」
「お前、疲れてるんじゃねーのかよ」
「でも、部屋にいても、押し倒したくなるし。今、アンタ弱ってるから付けこみたくなる」
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