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十八

もいいっそ、付けこんでくれれば楽なのに。 なんで、暴力で俺を抱いたんだろうか。 ちゃんとふつうに抱かれていたら、俺はきっと、多分。 このまま流れに身を任せていられたのに。 「海、行くぞ」 俺が短そう言うと、KENNの顔が嬉しそうに蕩けた。 ホテル専用のビーチの到着すると、夜の海は静かで別段驚くことも感嘆することもなかった。 「裸足になって、足付けてみようぜ」 「冷たいだろ、嫌だよ」 「良いから」 子供の様にはしゃぐKENNに、強引に腕を取られ砂浜にサンダルを脱ぎ棄てると、海の中へ足を入れた。 「冷てえ! やっぱ冷たいじゃねーか!」 KENNの腕に噛みつくと、くくっと心底楽しそうに笑った。 「お姫様抱っこでもしてやろうか?」 「お断りだ。ばーか。っけ」 KENNの腕から逃れ、寄せては返してくる小さな波へ、足をバシャバシャと蹴るように歩く。 夜でも分かる、透き通る海の水に、少しだけ感動したのは内緒だ。 「なあ、太陽」 「あ?」 夜の海の水は、やっぱり凍てつくように冷たい。 せめて、朝のとか陽がある時の方が良かった。 そう思いながら、KENNの言葉に耳を傾ける。 「部屋に戻ったら、やっぱアンタを抱いていい?」 それは、KENNらしい直球な要求だった。 思わず、鼻で笑ってしまう。 「傷つけていい?、の間違いだろ」 「愛し方を、俺に教えろよ、太陽」 教えてくれ、じゃなくて命令形な辺り、KENNらしい。 「俺は――」 冷たい海に足を浸からせながら、途方もなく惨めな気分のままKENNから視線を海へ戻す。 「俺に愛し方を教えてくれたのは、椿とあいつだから、俺は上手にお前を愛してやれないと思う」

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