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二十三

「んだよ」 「止めとけって。馬に蹴られるぞ」 「雷也も反省してちゃんと謝りなさい」 寒田が呆れた顔で雷也に近づくと、コンビニの袋を手渡した。 「貴方が、沖縄のコンビニにはきっと沖縄限定商品があるって、俺をパシリにつかって買いに行かせたんですよね? なのに外出したら意味が無いでしょう」 「だって、椿が来てるって分かって、居ても経っても居られずに」 「反省をしなさい」 「寒田も、あんなクソガキのお守大変だな」 「だな。俺なら生意気なこと言わないように可愛がってやるのに」 「……それもキモイ」 もう少し雷也をぼこりたかったが、何だか椿とのやり取りをみて興ざめした。 少なくてもこの二人は、俺と違ってちゃんと意思の疎通は出来ているらしい。 「じゃあ、ホテルのラウンジで気分でも変えて飲むか?」 「ホテルってラウンジとかあんのか」 よく考えたら、飛行機も初めてだがホテルに泊まる旅行なんかも初めてだ。 ラブホならあるけど、あれってほとんど人と接触しないし。 「レストランとかもあるんだぜ」 「馬鹿にすんなよ」 KENNがにやにやと見下ろすから腹にパンチをくれてやる。 「で、そこの色男さんも一緒に飲もうぜ?」 KENNが、二回目の俺の拳を受け止めると、俺の後ろへ声をかけた。 「いえ。俺は明日の撮影が早いので」 「あっそ。ならお酒の力で俺と太陽に何があっても――焼くなよ」 「いちいち脅さないでください」 寒田の表情は、冷静で慌てる様子もなかったのが何だか少し悔しかった。 「来いよ」 「太陽」 「少しぐらい、飲めるだろう」 散々俺が逃げて来た癖に、逃げられるとむかつく。 そうだ。俺が逃げていたのに。 「沖縄に来た意味がねえだろうが」 俺のその言葉に、眼鏡の奥の瞳がゆらゆらと揺れて、小さく息を飲むのが分かった。 「では、少しだけ」 寒田の思いつめたその言葉に、KENNだけが小さく笑った。

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